碧落の砂時計 青竹迷風―第1話 想い(前編)―

碧落の砂時計

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 ざわり、ざわりと風の音。
 空に近くなればなるほど、風は強くなり枝は細くなる。枝の先の葉は幾重にも絡み合い、乱れて揺れる。
 青空の下に、暗い夜空の下に。緑の葉の間から、雲をかいま見せながら、風に、揺れる。
 ざわり、ざわりと心も揺さぶる。

 細く長く、高く、強靭にしなる緑の竹が、激しく音を立てて揺れる。

 ――赤い金魚は、何処に居る?


 ・・・・・・・・・・


 寝苦しい夏の夜に、精神(こころ)が火照ればなお寝苦しい。連動して、身体の奥底まで何処か熱いと感じられる。
 心は轟々と乱れようとも、外はねっとりとした無風。暑さも手伝い今宵、少年は眠れずに居た。

 部屋の電気を全て消した暗闇の中、少年――清矢郎(セイシロウ)は何気なく右腕を宙に伸ばした。引き締まったそれが伸ばされ、握られた掌が開かれて、力なく額の上に手の甲が置かれる。
 今しがた、自分の汚いものに触れていた、不浄の手だ――とそれを己の顔に乗せながら、少年はやるせない気持ちに陥っていた。

 
 今日、彼は生まれて初めて女を抱いた。


 子供の頃から気にしていた、一番身近な血も繋がった少女を。
 幼い頃、性的に傷つけてしまった、深い罪悪感を抱いていた相手を。

 その相手が彼のしでかした罪を詰りながらも、だからこそ彼を欲するようになってしまったのだと、今日、その想いを告げてきた。この身体が、心が欲しいと訴えかけてきた。
 それであの時の罪を赦されると思ってよいのか、それともそれこそが報いなのか、行為が終わった今でも少年には分からない。
 だがもしも彼女が他の男にあのようなことをされると思うと、それこそ面白くないと心は嫉妬にざわめき、彼女を抱いた今は独占欲が一層強くなっているのも確かである。

 求めてくれるのならば、受け入れたい、傍に居たい――触れたい。
 十八歳の少年は理屈などなくそう思っていた。

 幼い頃から自分に甘えてきた、少し不思議な可愛い少女。
 一番自分を理解してくれるのではないか、と錯覚させるほど感受性の強い女の子。
 その笑顔と心配そうな瞳に、何度も救われてきた血の繋がりのある女の子――。

 無口な彼はクラスの女子とはあまり話をせず、だからこそ家族以外に彼の心を揺さぶるほど親しい相手も出来にくい。
 後輩の女子に告白のようなものをされたこともあったが、話したこともないのに自分の何を知っているのかと理解出来ず、断ってしまったこともある。勿体無いと周りに言われたが、興味のない相手と話を合わせる気にもならなかった。それならば、従妹のあの少女に会いたい、と思ってしまうほどである。

 滅多に会えない彼女がそれだけ気になるのは、幼い頃傷つけてしまったからか、彼が初めて触れた「女」だからか。あの出来事の後、彼女が中学校に入学してからも一年に数回の、親戚の集まりで会える日を密かに心待ちにしていた。会っても眼も合わせず、口をきくことも出来なかったが。

 更に三年が経ち、彼女が同じ市内の高校に入学したことも、清矢郎は実は内心嬉しいと思っていた。駅で姿を見掛けるようになったからだ。勿論、彼女に嫌われていると思っている彼は、やはり声など掛けられない。
 しかし何故か少女も彼を探していたらしく、ちらちらと視線を送ってきたのであった。まさかその頃からそんな風に自分のことを想っていたとは、その時少年は想像もしていなかった――それも今となっては全て過去のことであるが。

 それらの回想からしても、今日の出来事……初体験は、彼にとって結局、「嬉しい」の単純な一言に尽きるのである。だが、それはただ単に、童貞を捨てられたから、だけではない。

 彼女の体液や血液で汚れたシーツすら感慨深いほど、満ち足りていた。直ぐに洗濯をしたところ、真夏の暑さに母親が帰ってくるまでには乾き、冷静に無表情を装っていたが、心の中では胸をなで下ろしたものであった。
 しかし夜になっても昼間の興奮がまだ冷めやらず、彼女のことを思い出しながら自身を甚振ってしまっていたという始末である。

 自分は馬鹿ではないだろうか、と少年は眼鏡を外した眼の上に、洗ってはあるもののその不浄と感じている己の手を置き、眼を閉じる。
 それなのに、何度でも、何度でも、このベッドの上で喘いだ高い声と、快感に眉を寄せた顔と、細く白い肢体と、己を締め付けた柔らかい肉部を思い出していた。


 ・・・・・・・・・・

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