碧落の砂時計 月姫異聞―ACT10 月へ帰る日―

碧落の砂時計

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 自分を迎えに来ただのとのたまい、更には一気に求婚者を詰めかけさせた(と香具弥は思っている)月の使者・恒峨に、少女は抗議にかかる。
「月の呪いで、なんだか私の周りの人たちが喧嘩しちゃって大変なんですけど……」
「求婚者達が争っているということですよね……。でもそれならば」
 銀髪の美青年はいたって真面目な顔をして答える。

「私たちの意図するところではなく、月姫が月に帰る日が近づくにつれ、月が満ちていくかの如く、美しさを増しているからではないでしょうか……」
 そう、まるで月と地球との引力の如く惹かれていく――。

「はあ? 棒読みで言わないでよ」
 相変わらず歯の浮くような台詞に、香具弥はどうも馴染めない。
 それに陶酔しているのは恒峨一人であるし、おかしくなってしまったのもあの四人の少年だけではないか。学校の友人も竹流もそれ以外の知り合いも、香具弥が最近特別綺麗になったなどとは思ってはいないようである。
「私とかタケちゃんが月に興味ないから、火衣たちを操って嫌がらせしてるんじゃないかとか思ったんだけど……」
 心当たりがあるのか、ぎくりと肩を揺らす恒峨。

「そ、それよりも、姫がそのようにお困りだということは、あの無礼な青年はやはり――」
「タケちゃんのこと? そういえば言ってたよね。タケちゃんを試すために、この求婚計画とか……」
 穏和な香具弥の目も、段々と冷たくなっていく。「姫」に睨まれ、恒峨の体は一回り小さくなったように見える。
「とにかく、人を試すような事はやめて欲しいな。私だけじゃなくて、火衣たちも困ってるだろうし、私の問題でタケちゃんにも迷惑かけたくないし」
 香具弥がそう言うと、恒峨が視線を落とし明らかに肩をがっくりと下げたので、彼女は言い過ぎたかと思ってしまった。
 しかし本当にもし月が原因ならば、この主張も本音であった。――このままでは四人はいがみ合ったまま、事態はどうにも好転しなさそうであるし、保護者代わりの青年にも心配をかけるから。
 「ごめんなさい」とさすがに恒峨に一言付け加え一礼し、香具弥は夕食の支度をするため家へと帰っていった。

 天野屋の古びた横開きのドアを開けると、竹流が煙草をふかしながらレジに座っていた。
「おう、おけえり。今日もあいつらの襲撃に遭ってきたかー?」
 彼はあえて明るい口調で、四人に言い寄られて困っている少女を心配してやる。
「うん、まあね……」
 香具弥は暗い声で答えた。

 ――これからも四人はあんな風に喧嘩をしたり、それぞれに自分の元へと来たりするのだろうか……。
 少女はこの先のことを思うと、不安で暗い表情になってしまう。竹流は、彼の横の椅子に力なく座った香具弥を見た。そして煙草を口から外すと、今度は温かい声でこう言った。
「まあ、どいつも選べなくて、調停してえがどうにもならねえっつうなら、あんなガキ共俺がいくらでも、のしてきてやるからさ」
 その台詞は安心できるのか、そら恐ろしいのかよく分からないが――香具弥を拾う前の竹流はそれはそれは、酷い悪だったという噂が町内には有り――、しかしその笑顔を見て、香具弥もようやく少し笑えたのであった。

 その夜は、今度こそ本当に商店街の寄合で竹流は出かけた。
 香具弥は部屋の窓から高い位置にある月を眺め、本当に自分はあそこの者なのかと未だ訝しく思う。
 綺麗だとは思うが、懐かしいとまでは――。そこで彼女は、ふと思いついた。

 ――もしも自分が……想像はつかないが、誰か求婚者を選んだら、どうなるのだろう。
 それでも月に還れと言われるのだろうか? そして月へと導かれる、タイムリミットはいつなのか。本当に連れて行かれてしまうのか。

 細い月を見ていたら徐々に不安になってきた香具弥は、あの月の使者に話を聞いてこようと、夜にも関わらず思わず家を飛び出した。


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