碧落の砂時計 月姫異聞―ACT11 罪―

碧落の砂時計

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 ――月が私を追いかけてくる?
 日毎夜毎大きくなりゆく月に怯える少女は、月の淡い光の中を所在無く走る。家の店は閉店時間を過ぎており、竹流も寄合で居ない、静かな夜だった。

 香具弥が先ほどの公園に戻ると誰もいないように見えたが、
「姫!? いでっ!」
彼女の訪問に向こうから気付いたのか、驚く声とがんっという鈍い音が、息をつく彼女の真横にある土管から聞こえた。
「恒峨……さん……?」
 家に泊めてやってから何処に滞在しているのかと思いきや、彼はどうやらこの公園で暮らしていたようだった。
「ややっ、姫様がかような夜更けにお一人で外出されるなど、あの無礼な青年は一体何をしているのですかっ!」
「だからタケちゃんは関係無いって」
 それよりも土管生活に突っ込みを入れさせて欲しかった、と香具弥は思わずため息をつく。

 しかし前回ほど恒峨は慌てたり恥ずかしがったりしている様子はない。香具弥はふと疑問に思い尋ねる。
「ご飯はどうしてるの?」
「よくぞ聞いてくださいました! 心ある月王様のご厚意により、なんと毎食、月定食をお届けしていただけることになったのです!」
「……」
「これがまた栄養豊富でして。その他の軽量な物資や現金も月の光を通って――ああ、昼間でも月は出てますから、支給されています」
 お陰で毎日銭湯にも通えます!と嬉しそうに自慢する恒峨。夕方出会った時に電卓を叩いていたのは、出張経費を計算していたのだろうと察せられる。

 住む場所が土管なのはいいのかな……と香具弥はまた突っ込みを入れたくなったが、恒峨にとっては十分生活水準が向上したらしいので(布団もあるようだ)、彼がよいならば何も言うことはない。
「恒峨さんも、大変なんだね……」
 そうしみじみと言うと、香具弥は積まれた土管の上によじ登って腰掛けた。長い銀髪の青年はそれを不思議そうに見上げる。
「――それが、仕事ですが」
「うん……」
 香具弥は短く返事をすると、上空の月を見上げた。

「あと何日? 月行きの汽車とやらまでは」
「え? 中秋の名月の日ですから、あとひと月半ほどですが……」
 もうすぐ七月の下旬を迎える。月の形からすると、どうやら次の次の満月――になるようである。
「それには、絶対乗らなきゃいけないの?」
「姫!? 何を……っ」
 馬鹿にしているわけではないが、出張先の部下にホテルも用意出来ない月である。香具弥にはそんな強制力があるとも思えなかった。

「それにさあ、私が罪作って地上に来たって最初に言ったじゃない? もしも私が、求婚者だかなんだか知らないけれど、地上の誰かと恋しちゃったら、どうなるの?」
「姫っ! お気は確かですか!? そのようなふしだらな事をおっしゃるとは……あああ、嘆かわしい。これも全てあの粗暴で野蛮な青年の所為か!」
 美しい顔を顰めて、月の青年は嘆き出す。ふしだらって何もそこまで妄想しなくても、と香具弥は思うが、ふと呟いた。

「じゃあ、もしそんな事になったら、また罪になっちゃって私、月には行っちゃけなくなるんだ。ふうん……」
「まさか――!? 月姫、それはなりません!」
 深く考えず思いつきで言ったことだが、恒峨は土管に足を掛けると厳しい顔で香具弥の腕を掴むと叫んだ。

「また、同じ罪を繰り返すお気ですか!?」

 ――また……?

 紺碧の夜空に銀の星を散らしたような恒峨の瞳を見て、香具弥は首を傾げた。


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