碧落の砂時計 月姫異聞―ACT13 勇気―

碧落の砂時計

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 月が細くなり、消えていく――新月の晩。あとニ回月が満ちたら、月行きの汽車が来るのだ。香具弥にあの場所へ帰りたいという気持ちや懐かしい気持ちは、未だに感じられないまま……。

「どうした?」
「んー?」
 夏休み直前の、朝の通学途中のこと。香具弥がぼーっとしているのはいつもの事だが、
「何か元気ねーぞ」
火衣がそう言って心配そうに彼女を覗き込んだ。
「なんでもないよー」
 ふにゃりと笑う香具弥だが、彼に本心を見せていないことくらい火衣には解っている。伊達に五年も幼馴染や片想いをやってはいない。
 その反応は彼女にとっての自分の地位を、彼が思い知らされるだけだった。

「……何かあったら、いつでも言えよ」
 そのラインがどうしても超えられない火衣は、今の己には月並な台詞しか言えないことが酷くもどかしかったが、
「ありがとう」
それを彼の優しさと思う香具弥は、今度は心から嬉しそうに笑った。
 自分が月の姫だなどという不確かなことは、いくら幼馴染でもさすがに言えないと彼女は思っている。しかし彼の友達として(と香具弥は思い込んでいる)心配してくれる気持ちは、素直にありがたいと思っていた。

 そして学校で――。香具弥が視線を感じてふと見上げると、ニ年生の教室からグラウンドの彼女を見下ろしている生徒会長・御行の姿を見つけた。彼女がぺこりと頭を下げると、彼はふいっと顔を逸らす。
 香具弥は首を傾げるが、これは何日か前から繰り返されていることなので特に気にしてはいなかった。その視線に悪意も感じられなかったからだ。

 御行は御行で気にしていたのだ。四人に言い寄られて困ってしまっている少女の様子に、あの保護者だとかいう三十路男――竹流の言うとおり、これ以上彼女を追いつめてはならないと。
 だからいつもと様子の違う香具弥が心配でも、彼も心配そうに見つめるだけで、声が掛けられないのであった。

 そして更に、放課後。
「天野先輩っ!」
「今お帰りですか?」
 龍と燕が香具弥の前に現れた。この双子と話すことは、香具弥も昔から嫌いではない。
 二人は元々頭が切れるようで、会話がよどみなく、かつ面白いと思えるものであった。香具弥が夕食の買い物にスーパーへと行く途中に現れては、彼女の行動を乱さない範囲で、あえて色恋に関わらない漫才のようなトークを二人でしてくれる。
 ……それも最近元気のない自分を気遣ってのことだろうかと、彼女は思った。

 双子とも別れてスーパーに寄り、今夜の買い物を済ませ一人でスーパーから出てくると、香具弥はふうっとため息をついた。そしてスーパーのガラスに映る自分の表情を見る。
 ――そんなに元気の無い顔してるかなあ?
 火衣が、御行が、龍と燕が、己を気遣ってくれているのを感じ、いいやつらだよなあ、と彼女は心から思う。

 ……私、いつまでもこのままじゃいけないよね!
 彼らの優しさに押され、香具弥は「うん、」とひとつ頷くと走って家に帰り、食材を冷蔵庫に放り込んだ。
 そして「出かけてくる!」と客(というより近所の老人)と話し込んでいる竹流に告げると、先日の公園に再び駆け出したのであった。

 夕暮れの公園では、今日一日の経費を計算しているらしい銀髪の美青年が、相変わらずたそがれて電卓を叩いていた。
 息を切らして自分の目の前に立った少女に、月の青年・恒峨はまた驚かされる。
「どうしたんですか、姫? 此処に来ては、またあの無礼で粗暴な青年に怒られるのではないですか?」
 気遣いというよりは、竹流に対する少しの嫌味が込められているその言葉に、香具弥は首を横に振り、勢いよく恒峨を見上げた。

「罪って何!? 『私』は何をしたの? 私は、本当の事が知りたいの!」

 青年ははっと息を飲んだ。その真っ直ぐな瞳を、まともに見てしまった……直視してはならないそれを。
 「罪」について月姫に話す責務は、彼にはなかった。寧ろそれを聞くことによって、再び彼女が同じ罪を繰り返しても困るのだから。

 しかしそれに、敵うわけなかった。抗えるわけなかった。
 それは百年も前から決まっていた事なのだ。

 恒峨はついに観念し、重い口を開いた。


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