碧落の砂時計 月姫異聞―ACT14 月姫の罪と夢(前編)―

碧落の砂時計

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 それは地上では今から六百年程前の出来事。
 「月」と呼ばれる、ひとつの小さな星が国である場所でのこと――。

「月姫っ! またこのようなところに……」
 若くして月王の側近となり、月姫の教育係を命じられた青年・瀞峨(ジョウガ)は、呆れた声で「静かな海」という名の小さな紺碧の水面を覗く、月姫に呼びかけた。
 しかし返答は無く、普通の姫ならば豪華に着飾るだろう着物を活動的な短いそれに変え、金色の長い髪も動きやすく結い上げた月姫は微動だにしない。
「また、下天を見ているのですか……?」
「だって面白いんだもの」
 淡い金色の髪、月をニつ閉じこめたような金色の瞳の少女が瀞峨を振り向き、彼は何も言えなくなった。
 この少女の眼に見つめられると、問答無用でその意思に従いたくなってしまう。それは彼女が幼い頃から。

 月姫は小さな海を再び覗いた。
「暮らしも歴史も、似て非なるものだから……」
 瀞峨はその華奢な姿をじっと見つめていた。
 少女は海に銀色の小石を投入し波紋を作る。波紋が消えると、そこには碧い宝石……水の星が現れた。
「どうして下天は汚いって皆は言うの? こんなに綺麗なのに」
「空気も、争いも――月にはない汚れたモノが多すぎます。かの地は古には罪を受けし者の流刑の場所としても使用しておりました、禁忌の地なのです」
「でも月にはない綺麗なものもあるわ」
 月姫は瀞峨を振り仰いだ。その瞳の光から瀞峨は反射的に眼を逸らした。

 ――本当に汚れているのは……自分なのかもしれない、と思いながら。


 そしてある日――、悪夢は起こった。
「何っ! 月姫が!?」

 満月の夜、月は下天を浄化するかの如く神々しく照らす。その光に乗って、月姫は憧れの……月にとっては不浄の地とされる、地球へと遂に下ってしまったのであった。


 夜の草むらを、金色の髪の少女が軽やかな足取りで歩いていく。
 月にはない、土の匂い、草の柔らかさ、虫の声――。どれも気持ちのよいもの。何を以て汚いと皆は言うの?
 月姫が不思議に思いながら、念願叶った土の上を散歩していると、その耳に驚いた男の声が聞こえ、思わずそちらを振り向いた。
 黒い髪に黒い瞳、見たことのない風体と身なりをした青年がそこに居た。

 彼は第一声に、「鬼が俺を連れに来たのかと思った」と笑った。

 月姫にはその笑顔が、闇になびく草むらにやけに映えているように見えた。
 自分は月から来たと彼女が話すと、彼は地上では叶わなかった願い事が月に昇っていくという信仰があることを教えてくれた。
 彼の願い事は叶わなかったという。だから月姫が現れたのかも知れないと言った。

 その青年は村の外れに一人で住んでいた。だから月姫は誰にも不審に思われることがなく、土や水、緑や生き物――自然の中で暮らす青年に、それら下天の美しいモノを数多く教わった。
 発見の連続の毎日。長年の憧れであった地球を自身の五感で感じられることに、月姫は心から喜びを覚えた。その喜びがあったからこそ、それらは月姫の中に知識として急速に吸収され、成長していった。
 それは、乾いた土が水を吸うかの如く。そこから植物が伸び、花をつけるが如く。

 少女は恋も愛もまだ知らなかったが、もう少しこの暖かい場所に居たいと思った。


 しかし満たされた日々は長くは続かない。月王の部下は瀞峨を筆頭に月姫を狂ったように探しており、その青年もまた、彼の恋人であった名家の娘を殺した罪で都から追われる身の上であったのだった。


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