碧落の砂時計 月姫異聞―ACT15 月姫の罪と夢(後編)―

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「……それで、月姫はどうなったの?」
 汚れた地と言われた水の星に憧れ、地上に降りた月姫。恒峨の話によると香具弥は彼女であり、彼女が犯した罪のために此処にいるというのだ。
 香具弥は己が犯したという「罪」の内容を確かめるべく、過去の出来事を言いにくそうにする恒峨を見つめ続けた。

 彼の話はこう続く――。


 月姫の教育係の青年・瀞峨は、信じたくなかった。
 ――姫は誘拐などで行方不明になったのではない。いくら気に入っていたからと言って、かの不浄の地に月の姫が自ら足を踏み入れたのか。
 そんなことが姫として許されるはずがない。地上に降り立った瞬間、汚れた者となってしまい姫の資格すら失いかねないのだ!
 月王もいくら父親であっても、王としてそれは認められないこと。だからそんなことは断じてあってはならない……それなのに!


 その頃。月姫は地上の素晴らしい自然を教えてくれる青年との生活が、月宮の生活よりも好きだと思うようになった。この日々が愛しくてたまらなくなっていた。
 少女の姫はまだ幼く恋も愛も知らなかったが、父や母は恋しくとも草が風に揺れるように、花が咲き虫が止まるように、木が星の下で鳴るように、彼女自身もこの場所で同じように命を紡ぎたいと自然に思うようになっていた。
 そしてその人間の青年の紡ぐ命を見てみたいとも、同じように自然に夢見るようになった。

 自分の感じていることの「何」が罪になのかと、少女には寧ろ月の考えが理解できず、このまま全てを捨てて己の歳や命をこの地球で、彼の傍で重ねたいと願い始めていた。

 月姫が青年にその話をすると彼は大層驚き、そしてとても哀しそうに笑った。
 彼は自分にはその資格が無いと言った。
 人の……何より大切だった筈の人の命を奪った自分には、もう死ぬ事しか許されていないのだと。

 月姫はよく解らず彼を覗き込む。
 青年はその金色の光は、自分を黄泉へ迎えるために来たのだと思っていた。だがそうするために来たにしては、その光はあまりにも綺麗過ぎた。

 その時、青年の家の扉が破られた。現れたのはその青年を――都で貴族の姫を殺した武士を討伐に来た追手。
 ――いつかは死ぬつもりだった。だがこのままではこの純粋な月の少女も殺されてしまう。
 そう思った青年は月姫を連れ、また逃げ出した。

 この少女に出会う前に自ら命を絶たなかった事を、彼は後悔した。
 そうして二人で隠れた洞の中、此処でお別れだと彼は少女に言った。月姫は嫌だと泣いた。
 ――何故人は争うのか。何故彼は愛した人を殺さねばならないほど、追い詰められねばならなかったのか。
 しかし瀞峨が言った「汚れ」というものがそれならば、自分は汚れても良いと月姫は思った。此処で永遠の別れとなるならば、彼の命は自分が次の世代に引き継いでいかねばならないとも……。

 そしてその二人が選んだ道。ようやく月姫を見付けた瀞峨は「それ」を知り怒り狂い、月の光で洞を明るく照らした。
 奇しくも都からの追手はその光により、隠れていた青年を見付け出してしまう。
 洞の外からの声にもう逃げられないことを悟った青年は、最期に月姫に笑い掛けると自ら洞から出ていき――、追手にその場で討たれた。

 しかしその追手が呆然としている月姫を、更に人殺しの共犯者として捕らえようとしたその前に、瀞峨は一瞬のうちに月姫を奪い去り、その洞を崩したのであった。


「貴方など、姫ではない」
 瀞峨は眼下に座る汚れた「モノ」を憎悪と嫌悪の眼差で睨み、見下したように告げる。
「これは月からの裁き。禁を犯したばかりか、地上の汚れた物と交わりを持った者など……月王に厳罰を与えられるがいい」
 ――本当は自分が罪を犯したい位、愛していた。なのに何故お前が他の者と罪を犯す?
 身分違いの狂う程の瀞峨の愛情は、今まさに憎悪に変わる。

 しかし、月姫は彼に向けて毅然と顔を上げた。
 今の少女にならば、あの青年が何故愛した者を殺したか分かったような気がした。それがたとえ誰かの罪でも、許されない事でも、ただの我が儘と言われても――。

 こうしている今でも地上の草も木も風に揺れ、地球は廻る。そのようにただ生きたかっただけなのに。
 それが汚れた望みでも、どうしてかこの地上の命を愛さずにはいられないのだ。


 月姫は彼女の胎内から彼の命を取り出すと、それを地上にばら撒いた。
 星のようにそれはきらきらと舞い踊った。


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