碧落の砂時計 月姫異聞―ACT16 香具弥の正体―

碧落の砂時計

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「それが、私の前世が犯した罪なの……?」
 土管の上に座った香具弥は、膝の上に頬杖をついて恒峨を見ていた。
「前世、ではなく」
 恒峨は香具弥を少し見て、また俯いた。
「姫――貴女様、ご自身が月姫様なのです」
「え!? だって六百年も昔の事だったのに?」
「月と地上では過ぎゆく時の長さが違いますし、それに……」

 月では不浄の地とされてきた地球――そこへ降り立ったどころか、地上の者の命すら体に宿した。しかも月の姫が。
 月王や臣下は、瀞峨からの報告に驚き哀しんだ。しかし彼らにも守らねばならないものがある。
 そんなにかの汚れた地を望むのならそこに居ればよい、月に戻る事は許さない、汚れた姫などその存在すら無かった事にしようと、月姫を胎児になるより前の細胞の姿まで戻し、それを地上の植物である一本の竹の中へ入れた。
 竹藪の汚れた土と水と空気と共に、己が誰かも分からず、竹ごときに奇生して生きればよい、と。

 美しかった姫は今やただの細胞と化し、地上の賤しい植物と一体となり、汚れた土を糧として生きている――。
 なんと浅ましい姿であるか。月姫を誰よりも愛し、誰よりも許す事が出来なかった瀞峨はその日よりかの金色の姫を忘失した。

「しかし時が経ち、月姫の弟君が即位され、現在はその方の御子息の御子息が月王であらせられます。その現月王もご高齢になられましたが、未だお世継ぎがおらず、このまま血が耐えるよりはと古の罪を犯した姫を許されることにし、地上に幽閉されし貴女様を、月へお迎えするよう決められたのです」
 ――そして十一年前、竹の中でその一個の細胞が育ち、一人の黒い髪、黒い瞳の少女が目覚めた。黒という色は、地上の者の色……地上での六百年の時を得て一人の少女が蘇ったのである。

「それが、私なの?」
 恒峨は頷いた。
「貴女様が月姫様なのです。そして私は罪を許された貴女様を迎えに来たのです――」
 そして彼は恭しく膝まづく。
「……ちょっと待って」
 香具弥は首を捻った。それは幾分勝手というか。しかし月がそういった措置をしなければ、今自分は生きていない、というのも事実なのだ。

「恒峨さんは、月姫がしたことは罪だと思うの?」
「禁を犯した、という点では……」
「そう……」
 ――そうなのかも知れない。だが彼女が禁を犯しても手に入れた、夢だった地上の命。自己が消える前にその命を地上に残し、夢を叶えた月姫……。

「ねえ、もしかして、火衣たちは、求婚者だとかいう四人は、」
火衣も、龍も、燕も、御行も。
「月姫の子孫たち、なの?」
 月姫の希望は星のように地面に舞い降り、六百年の時を掛けて命を紡いだ。そしてまた、再び巡り会う――。
 恒峨は何も言わなかったが、香具弥の中でその符号は一致していた。だとしたら、それが誰かの罪でも、それでも……。

 香具弥がそれをどう言ったらよいか分からずに口を噤んでいると、
「盗み聞きですか……」
不意に恒峨が低く呟いた。
 それに答えるようなため息が聞こえたので香具弥が後ろを振り向くと、いつの間にそこに立っていたのか、丁度竹流が煙草に火を点けたところが目に入った。


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