碧落の砂時計 月姫異聞―ACT17 香具弥の罪?―

碧落の砂時計

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「盗み聞き……? 聞かれちゃ困るコトでも話すつもりだったのかよ?」
 二人の話の腰を折らないよう我慢していた煙草を吸いながら、竹流は薄く笑てそう言うと恒峨を見た。
 その見透かしたような、馬鹿にしたような物言いに――実際は厭味も込められていたのだが、恒峨はむっとしたような顔で竹流を睨んだ。
「貴方には関係の無い話ですから」
 これは月と月姫だけが共有すればいい事情――。部外者を嘲るように、恒峨も口端で笑った。

 相変わらずこの二人は仲が悪いなあ、と香具弥はその火花の間に立ち、二人のそれぞれの想いも知らずため息をつく。
「一応保護者としては渡せって言われて訳も分からず、はいそうですかって渡すワケにゃあ行かねえからな」
 竹流は煙草の煙を吐き出した。そして恒峨が何か言い返そうとしたのも全く無視して、
「で、話は済んだのか?」
と香具弥の方を振り返る。

「――」
 その瞬間、眼鏡の奥の眼と香具弥の眼が合った。香具弥は思わず眼を逸らし、ただ黙って頷いた。

 ……何か罪悪感が、少女の胸を過ぎったのだった。

「そんじゃ帰ろうぜ。腹減った」
 また姫にそのような事を!と叫ぶ恒峨をやはり無視して、竹流は煙草を地面に落とすと足で消し、土管の上に座る香具弥に降りるよう顎で促す。
 少しためらいがちに土管から飛び降りた彼女は既に歩き出した竹流の後を追いながら、ふと思ったことを振り返りざまに恒峨に問い掛けた。
「ねえ、その瀞峨さんって人は……」
「――私の曽祖父です」
 恒峨は静かに答えた。

「代々、我が一族は月の王族に仕えてきました」
「そうなんだ……。ごめんなさいっ! 晩ご飯の支度しなきゃいけないから、私帰ります。お話ありがとうございました!」
 香具弥はせわしなく一礼すると、小走りに立ち去っていった。

 ――忌々しい、と恒峨の口から舌打ちが漏れる。
 香具弥姫にとって第一優先は常に「奴」なのだ。「奴」が来なければ、自分は――。

 ……自分は? どうしていた?


 ――やっぱりな、と竹流は香具弥に見えないように溜息をついた。
 瀞峨とか云う奴の話が出た時まさかとは思ったが、自分の「予想」は当たりそうだった。競馬と違ってそんな予想当たっても、嬉しくもなんともないのだが。


 そして夕暮れの帰り道、香具弥は竹流の背中を追い掛け歩いていた。しかし今日は、小さな頃みたいに隣を歩く事が出来なかった。
 何かを言い掛けて背中を見ては何も言えずに俯く、その繰り返し。しかし四度目の時に香具弥はついに口を開いた。

「ね……タケちゃん……。――怒って、る?」
「はあ? 何でだ? 何にだ?」
 今度は予想もしていない質問に竹流は思わず足を止めて振り向いたが、自分をじいっと見る香具弥の真剣な顔に言葉を失った。

「何って……タケちゃんも聞いてたんでしょ。私って、月姫その人だって……それで、罪を犯したって……」
 香具弥は再び俯いた。
 ――同じ細胞、同じ人物……自分は月姫だった。昔、一度許されない恋をして子供まで産んだらしい。そんな自分を竹流はどう見るのだろうか。
 それが恐くてたまらなかった。

「馬鹿野郎」
 しかし少女は怒られることも軽蔑されることもなく、急に彼にわしわしと頭を撫でられる。
「『香具弥』がした事じゃねえだろ」
 香具弥は竹流を見上げた。
「――それに、だ。それが誰かにとっては罪とか言われても、俺はそれが罪とは思わねえから」
 少女の頭から手を離しながら、竹流は屈託なく笑った。

 欲しかった答えを貰えほっとした香具弥は、そこでようやく少しはにかんだ笑顔を返えすことができたのであった。


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