碧落の砂時計 月姫異聞―ACT22 竹流の本心―

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 些細な事で喧嘩した血の繋がらない親子……のような二人。
 本心を話してもらえないことを互いにもどかしく思うくせに、それを中々口にしない、実は性質も似ている親子……のような二人――竹流と香具弥。

「恒峨さぁぁぁん!」
 早めの風呂を銭湯で済まし蚊取り線香に火をつけ、蜩の声の中、夕涼みを楽しもうとしていた恒峨は突然の香具弥の怒号に慌てふためいた。
「いえ、姫、これは、あの……」
 しかし香具弥はそんなことも先日聞いた複雑な過去の話も今は気にも留めず、一気に恒峨に詰め寄った。

「私を月に連れてって!!」

「は!?」
 突然の発言に恒峨も一瞬絶句する。
「その……、月行きの汽車はあと一月以上来ないのですが……」
「……」
 香具弥が憤然とした表情をし黙り込んだので、恒峨はその迫力に押され、すみませんと小さくなってしまった。
「別にいいの……」
 すると急に香具弥が大きな溜息をついてぽつりと呟いたので、恒峨はまた驚いて顔を上げた。
「月に行ったって、私の本当の両親がいる訳じゃないもの」
 恒峨は香具弥の心が読めず、不思議そうに彼女を見ていた。

 ――「彼」と本当の親子だったり兄弟だったりしたらどうだったか、なんてそんな無意味なことなど少女は考えたこともなかった。
 だが竹流は、余りにそのどちらにもそぐわない人間だった。だがそれが「彼」なのだと思い、だからこそ父親としてでも兄としてでもなく、子供の頃から彼の「名」を呼び香具弥は信頼を置いてきた。

 しかし商店街の皆の噂から、知らない訳でもない。彼が昔どんなに荒れていたのかも、その時も今もどれほど悪友の男性にも――そして女性にも好かれているのかも。
 だから子供である香具弥との生活が、彼の人生を一八〇度転じさせた事は、誰であれ否めない事実であった。
 彼が己の望まないことに対しては、見向きもしない人物だということは香具弥もよく解っている。だから今のこぶつきの生活を彼は望んでいないのでは、などということは彼女も考えたりはしなかった。

 だが、香具弥の為に真面目に商売をし少ない稼ぎを貯め、香具弥のような存在を養っているから結婚もせず、女も作らず――男も女も「友達」ならばたくさんいるようだが――そんな生活に不満が無いと言い切れるのか?
 竹流が外に向けている顔と香具弥に家で見せている顔が違うことに、少しずつ大人になってきた香具弥は最近の月の一件からようやく気付き始めた。
 ――いや、本当はずっと前から何処かで感じていた。ただそれをあえて見ないようにしていたのだ。
 何故ならそれを意識してしまったら、自分の存在の意味が分からなくなってしまうから――。

 とにかく竹流はぞんざいな態度でも香具弥には優しく、安定した感情しか見せていない。不安定で陰の部分は決して見せたことがない。
 ――ならば自分は何の為に彼の側にいるのか? 何故彼は自分には本当の「彼」を隠すのか?
 最近の激動的な出来事を通してもいつでも自分に優しい竹流を見ているうちに、香具弥は逆に不安と不満を抱くようになってきたのであった。

 訳が分からずとも自分を心配そうに見てくれる恒峨に、香具弥は大丈夫、と笑った。だが彼女の心中はまだ穏やかではなかった。

 ――それなのに、

「そんなに此処が居心地いいワケか……」

非常に不機嫌そうな声をした竹流が後ろに立っていたので、香具弥はびくりと反応したがわざと聞こえないふりをして、そっぽを向いた。


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