碧落の砂時計 月姫異聞―ACT24 あの日の眼―

碧落の砂時計

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 中秋の名月まであと一ヶ月。互いに本心を話してもらえないと、たどたどしい態度をとる香具弥たち親子……のような二人。

 火衣に最近竹流の話をしないと指摘された香具弥は、思わずまじまじと彼を見た。
「そうなの?」
「――ま、まあな」
「ふうん……」
 再び黙って考え込み始めた香具弥に、火衣ははっと気付くと焦って尋ね出す。
「おめ……っ! まさか、あのクソ親父に……っ!?」
 しかし何を想像したのか、彼は赤+青=紫色の顔色になって慌てているが、
「んーん。別に何でも無いんだけどさ……」
香具弥はその的外れな心配に気付くことなく、溜め息混じりに曖昧な返事をした。

 が、火衣はその物憂げな言い方が余計に気に掛かり、だが詮索すれば心の傷をえぐるかもしれないなどとも思い、そうは言っても香具弥が大変な目に遭っていれば助けてやりたい――と、一人葛藤している。

 火衣の心中知る由もなく、香具弥は分かれ道から自分の通う高校へと向かったが、改めて指摘されたことを、何となく考えてしまっていた。
 竹流と自身の関係についてなど考えた事などなかったし、今までその必要もなかった。
 どんな関係かと周囲から訝しまれたこともあったが、そんなことは気にならないくらい毎日楽しく平凡に平和に暮らしてきた。
 ――だが自分は「香具弥」ではなく「月姫」という異星人だったと急に言われ、己の存在に不安を感じた時に、ふと彼が本心を今までも、そして今も見せていないことに不安を感じたのであった。

 自分は此処に居ても良いのか、と。
 彼にとって、必要な存在なのか、と。


 ・・・・・・・・・・


 ……別に「奴」に会いたかった訳じゃないが、狙って居なかったと言えば嘘になる。
 天野屋は隣町の美容院のお姉さんと付き合っていたから、熟年女性向けの化粧水などはそこから横流ししてもらっているらしいと言うのは、火衣も調査済みだった。
 だから香具弥に会った日の午後、目的を持ってその店の近くをうろうろしていたと言っても過言でないのだが、丁度よいタイミングでその美容院から竹流が煙草を咥えて出てきたのであった。

「――よう」
 立ち尽くしていた火衣に声を掛けたのは、竹流が先だった。
「また何か用か」
 面倒臭そうな竹流の言い方が火衣には癪に触ったが、その態度が彼と香具弥との間に何かあったことを確信させる。
 ――聞くのは少し怖かった。だが聞かずにはいられなかった。
「香具弥と何が、あったんだよ……?」
 恐怖を隠すように低く、ゆっくりと言う。

 竹流は煙草の煙を吐くとまじまじと火衣を見た。そういう仕草が血も繋がって居ないのに香具弥と似ていて、火衣は何だか気にいらない。
 すると竹流は急に吹き出すと声を立てて笑い始めた。そして火衣の頭をぐしゃぐしゃと撫でながらこう言った。
「心配しなくても、おめーさんが考えてるようなコトはしてねえよ」
 自分が心配していることを察した竹流に可笑しそうに大笑いされ、火衣は馬鹿にされた様な気分になり更に機嫌が悪くなる。

「ホントかよっ」
「ホントだよっ」
 口真似され益々腹が立つが、嘘では無い……だろうと彼は思った。だが何も無かった訳でもないだろう。
「香具弥が最近変だって話は前もしたけど……もっと変になった」
 竹流は再び話し始めた火衣と目を合わせた。
「あんたの話をしなくなった。子供の頃からどんなに嫌なことあってカラ元気の日でも、あんたの話だけは一日に一度はしてたあいつがな!」
 ――この男は自分には越えられない、唯一無二の不変の壁だと、少年はずっと前から思っていた。だからこんなにも、彼のことが憎らしい。

「だから、この前から香具弥が落ち込んでる件にあんたが絡んでるかどうかは知らないけど、『今』香具弥がヘコんでるのはあんたの所為だからな!」

「……」

 子供に怒られて――。

 そこで竹流は何も言わずに火衣の両頬を引っ張った。
「はひふんら(何すんだ)よっ!」
「いやあ、火衣坊も『大人』になったねえ」
 含みのある嫌味ったらしい言い方に火衣は目の前の青年(中年?)に真剣に殺意を覚え、竹流の両手を振り払い叫ぶ。
「昔っから大人気ねえ邪魔ばっかりしやがって! 一体香具弥はあんたの何なんだよっ!」
 所有物だというのか、それとも娘なのか、それとも――?
 しかしその質問は核心を突いたとも言えるらしく、竹流の眼鏡の奥の眼差が今まで火衣が見たことないほど、冷たいものに変わった。

「何なのか……なんて、そんな簡単に言えるるか……」

 口の端だけを吊り上げて笑うと、竹流は火衣の肩を軽く、大きな手でとんっと突く。
 それが竹流からの「答え」だと火衣は察し、それ以上追及しても自分のような子供が定義する範囲の「答え」は返ってこないだろうと悟った。卑怯なのは向こうの筈なのに、火衣は何やら聞いてはいけないことを聞いてしまったようなばつの悪い気分になってしまった。

 ――その時の竹流の眼が、香具弥に出会う前のそれであったであろうことに、火衣は後日、この時のことを思い出して気付くのである。

 
 そしてその日の夕方、香具弥が家に帰ると、店のレジにいた竹流と何気なく眼が合ったのだが――、一瞬、背筋がぞくっとするような、だがどこか懐かしいような気もするな視線を受け、少しばかりどきりとした。
 しかしそれは短い時間のことで、すぐに竹流は何事も無かったかのように新聞に目を落としたのだった。


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