碧落の砂時計 月姫異聞―ACT29 爆発―

碧落の砂時計

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 誰か一人と、本当に分かり合いたくてその人を大切にしたいのなら、自分の全てを曝すことも大切だと龍と燕に言われ、香具弥は心を決めて動く密室・観覧車から双子と連れ立って降りた。
「姫~っ!」
「てめえら、何か変なコトしてねえだろーな!」
 しかし降りた途端、この遊園地のバイト服に身を包んだ恒峨と火衣が、香具弥と双子の元に駆け寄ってきた。
 一日中走り回って心配と疲労が極限に達した二人は、もう恥も外聞もない。恒峨は香具弥の膝元で泣き、火衣は右手と左手で器用に(しかも彼より背の高い)龍と燕の胸倉を掴んで睨みつけている。


 ――その頃、双子がデートの最後に観覧車を選んでいることをカメラで把握済みの御行は、管理室から観覧車の方へと向かって歩いていた。
 己の会社が経営する遊園地にいるのは、そう不自然でないだろうと思ったからと、あの銀髪の美青年の存在が彼もまた気になったからであった。
 それと同時に、竹流も煙草を口に咥えてのんびりと御行の後ろから部屋を出てきた。しかし彼は、観覧車の方にまでは来なかったようであるが、御行もそこまでは気にしなかった。


 ・・・・・・・・・・


「「「で、何で『姫』なの?」」」

 そこでふと我に帰った火衣と双子の三人は、銀髪の美青年と香具弥を見比べて尋ねた。
「え……? と……」
 香具弥もまずい、と思うがどうしたらいいか分からない。
「それはですね」
 勝手に話し始めようとする恒峨を、彼女は「わーっ!」と叫んで慌てて止めながら、
「それよりも火衣と恒峨さんが、何で此処に一緒にいるのよ? しかも、そんな格好して!」
逆にそう突っ込みを入れると、今度は火衣と恒峨が、ぐ……っと絶句する番になる。


 更に同刻のことだった。
「いよいよお店も経営不振? こんなところで働くなんて。香具弥ちゃんも可哀想にー」
 観覧車の近くの――しかしそちらからは見える位置ではない喫煙所で、バイト服のまま煙草をふかす竹流に一人の女性が近づいて声をかけた。

「……うるせえよ。てか、何で玉枝がこんな可愛らしい場所にいんだよ」
「あら。ここの経営者はどなたでしたっけ?」
 このアミューズメントパークの経営者は、イシダコンツェルン=石田御行の家の会社であるが……。
「まさか、お前……」
「そう、それ♪」
 茶色の長い髪、露出度の高い服、三十路目前とは思えない玉の肌――竹流の友人である女性・玉枝は、彼の胸ポケットから煙草を一本拝借すると、差し出して火まで点けてもらい、美味しそうに吸い出した。

 彼女は一見水商売風の雰囲気だが、実は竹流と昔から付き合いのある美容師で、天野屋の商品の一部は彼女を伝(つて)とした裏ルートで取引しているのである。
 御行は以前、香具弥のためにと称して、天野屋を自分の会社の傘下に入れようと竹流の取引している店や個人を買収しようとした事があったが(ACT20参照)――玉枝の美容院も話を持ちかけられた一つであった。

「その話はなくなったんだけどさ、その時にもらったチケット。折角だから使っとこうと思って」
「使うなよ!」
 玉枝は買収話の折に、挨拶代わりにもらったというイシダコンツェルン発行のペア一日券をネイルアートを施した爪の指先に挟んで、誇らしげに竹流に見せた。
「第一、一人でこんなトコに来たのかよ」
「違うのよー」
 しかしそれまでの笑顔は一転。玉枝は今度はおいおいと泣き真似をして竹流の胸に縋り付いてくる。

「お客さんと一緒に来たんだけどね、やっぱり家族に申し訳ないって途中で帰っちゃったの……」
「だーかーらー、妻子持ちと付き合うのはやめろっつっただろーが」
 阿呆か、と竹流は呆れた表情で煙草の灰を落とした。しかし玉枝はすぐに泣き止むと、にやりと笑い、
「とゆうわけでさあ、今日はもうバイトやめて私に付き合ってよ~」
と竹流の腕に自分の腕を絡めてきた。

「ヤダ、ね」
 竹流は思い切り嫌そうに言うが、彼女には一応世話にはなっている手前、邪険にもしにくい。
「えー、ケチー」
という割には昔馴染のよしみで腕を離さない玉枝と、それを振り払うべく押し問答をしながら竹流が歩き出すと……、

「あ……」

そこへ恒峨の事を説明できない香具弥、ここに来た理由を話せない火衣と恒峨、香具弥を送っていこうとする双子、の集団が丁度歩いてきて。なおかつ、香具弥の様子を見に来た御行も、その現場に居合わせて――。

 その時の香具弥の目は、香具弥が顔だけ知っているが、その関係については詳しく教えてもらっていない顔見知りの美女と腕を組み、目が点になっている竹流にだけ、注がれていた。

 瞬間、少女の思考からは恒峨についての言い訳も、連れてきてくれた龍と燕のことも、心配してくれたのであろう火衣のことも、何故かここに来ている御行のことも、全てが遠ざかっていった。

 本当に分かり合いたいと、「彼」と全てを話そうと決めたのに――。

 ――なによ、何よ、なによ……!

 竹流の隣にいる、彼が香具弥に絶対引き合わそうとしない、見覚えだけはあるあの美しい女性。引き合わせないのはきっと、彼女が竹流の「昔の姿」を知っているから。
 そして竹流は「それ」を絶対に、香具弥に見せようとしないから。
 そして彼女とは、腕を触れ合う姿からしても――「そういう関係」になったことがあるだろうから。

「知りたいのに……」
 その場の全員の時が止まり、絶句している中、香具弥の低い声が空間を震わせた。

「私はタケちゃんの事、何にも知らないのに……っ! 何にも、教えてもらえない。だから一緒にいたって、すっごく遠い! だったら、何のために一緒にいるの!? 何でも隠して、全て隠されて――それで本当に分かり合えるわけないじゃない!」

 いつも、落ち着いてぼーっとしていた香具弥の感情の爆発は、長年のつきあいの火衣ですら――いや、竹流自身も見たことがなくただ呆然としていたので、香具弥のリュックが宙を切ったのにも彼は気付かず、それは古典的に竹流の顔面へと命中した。
 そこで我に返るものの、最早引っ込みがつかなくなってしまった香具弥は、「ごめん!」と皆に謝るとその場を駆け出した。

 突然の出来事にしばらく時が止まったように一同身動きがとれなかったが、はっと気が付いた四人の少年たちは誰からともなく走り出した。恒峨もいつの間にか消えており――後には、
「あたし……、何かした?」
バツの悪そうな顔をした玉枝と、非常に不機嫌そうな顔の――それは誰に向けられた怒りなのか――竹流が残ったのであった。


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