碧落の砂時計 月姫異聞―ACT30 別離―

碧落の砂時計

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 家族だからって、全てを曝けて付き合っている訳ではないが、香具弥にとって竹流はこの世でたった一人の「家族」なのだ。
 だが、本当は「他人」だからか。それとも香具弥がまだ「子供」だからか。
 本当の「彼」を見せてくれないことは、香具弥としては「拒絶」されているような気がしたのだった。

 思わずその場を飛び出してしまった香具弥であったが県外の遊園地に来ているため、電車に乗って帰るしかない。行きと違い一人寂しく、とぼとぼ歩いて駅へと向かうと――、
「天野先輩っ! よかったー!」
「今日は俺たちが最後までエスコートするんですから。お家まで送っていきますよ」
「やめとけ、香具弥。こいつら飢えた送り狼だ」
「失礼な!」
「そーですよ。どっちがっ!」
すぐに後ろから龍と燕、そして火衣が香具弥を追いかけて来た。

「ごめんね……」
 折角自分を元気付けようと連れてきてくれたのに申し訳ないと、香具弥は頭を下げた。
「暗くなるのに女の子一人じゃ心配です」
「一緒に帰りましょう?」
「てめえらの方が危険だっつうの!」
 双子や火衣の変わらない明るい優しさに、香具弥が申し訳ない気持ちでいると……、騒いでいる四人の横に突然黒い高級車が横付けされた。

「乗っていくといい」
 窓を開き顔を見せたのは、
「「「お坊ちゃま……」」」
先ほどまで遊んでいた遊園地を経営する会社の御曹司。少年三人が、厭そうな声を揃えて助手席の御行に向けたのは言うまでもない。
 しかし接続のよい電車もなく結局その方が楽だということになり、香具弥だけでなく、双子も火衣も大人しく御行の車に乗って家に帰ることにした。

 帰りの車中、香具弥を笑わそうと双子のトークが繰り広げられる(主に火衣をいじって)。怒る火衣に、何も話さない御行――それでも皆の思いやりは香具弥に十分伝わってきた。
 しかし心はやはり、先程の拒絶されたような寂しさに戻り、少女は不意に口を開いた。
「私、どっか遠くに行っちゃうかも知れない……」
「「「「え!?」」」」
 四人の少年全員が驚いて香具弥を見た。

「まさか……、転校……?」
「それとも自殺するとか言うんじゃないでしょうね~」
「そんなことする前に、俺達に相談してくださいよ~」
 火衣と双子が口々に心配して言うが、それまで黙っていた御行がぽつりと言った。
「あの親父のところを出るつもりか?」
 騒いでいた三人は、「そうなのか!?」という表情で再び香具弥を見る。

「――まだ分からないけれど……」
 そうと言えば、そうなのだろう。香具弥は少しの間の後に頷いた。
 竹流の傍にいていいのか自信がなくなってしまわなければ、そんな考えにならなかったかもしれない。
 自分が本当に月姫その人だと言うのなら、自分の在るべき場所に還るべきなのかも知れない。この地球が、天野屋が、竹流の傍が――「仮の宿り」だったというのなら……。
 今の香具弥はそう考えていた。

「まさか、さっきの変わった格好した人に着いて行くんですか?」
 燕が放心しながらも鋭いことを言い、その場の空気がまた凍る。
「なんか怪しくねえか? あいつ……」
 今日一日一緒に行動した割には、敵意を顕にして火衣は言った。そいつのせいで香具弥が遠くに行ってしまうなら、尚更である。
「うん。でも……」
 香具弥はそこで少し哀しげに微笑むと、こう言った。
「どこから来たかも分かんないような私と、仲良くしてくれてありがとう…でもタケちゃんのこととか関係無くって、自分がどこから来たかとか、もっと知りたいから……」

 それは、彼女の本心なのか――。
 香具弥と竹流が親子でも親戚でもないことを知っている四人に、彼女を止めることなど出来なかった。
 「また会いに来るよ」と、そう出来るかは分からなかったが、香具弥はどうにか笑顔で約束した。


 その後の車中は皆、無言だった。暗黙の了解で香具弥を最初に下ろした後、火衣が男だけとなった車内で悔しそうに言った。
「まだ、あのクソ親父の所にいてくれた方が、勝算があるじゃねえか……」
 それを黙って聞いていた御行は、竹流へ投げかけた質問――「香具弥の最後の選択肢に入る気はないのか?」の答えを思い出していた。
 “俺が、何故?”と、彼は冷たい瞳で答えた。それは少女を拒絶しているからか、それとも……。
「自信がないのは、どっちだ……」
 「答え」などもう出ているのに、二人共大きな思い違いをしている。そう思った御行は馬鹿馬鹿しくて大きな溜め息をついた。


 ・・・・・・・・・・


 香具弥が家に戻っても、誰もいなかった。

 暗い家の中に、一人ぼっち。今までは一人でも恐くなかった。――あの日、竹薮に一人で立っていた時すら、少女は恐くはなかった。
 それは絶対に竹流が来てくれるという確信があったから。

 ――何でこんなことに、なっちゃったのかなあ……。
 私じゃ駄目なのかなあ……家族として。そんな名称じゃなかったとしても、傍にいられる存在として、私じゃ……。

 そんなことを考えていると、胸がぎゅっと締め付けられるように苦しくなり、香具弥は久し振りに、涙を落とした。
 もう二度と彼がここへ帰ってこないような錯覚すらして、不安のままに少女はふらふらと家を出てしまい、その足は恒峨がいるであろうあの公園へと自然に向かっていた。

 空には不気味なほど大きな丸い月が、昇ろうとしていた。


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