碧落の砂時計 月姫異聞―ACT31 最悪―

碧落の砂時計

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 暗い家から飛び出した香具弥の眼には、徐々に涙が溜まってきた。
 誰でもいいから、誰かに傍に、居て欲しいと思っていた。できれば、「彼女」の存在を認めてくれる人に……。
 香具弥がいつもの公園に辿り着くと、大きな月を背に銀髪の美しい青年が立っていた。

 ――ああ、やっぱり来た。
 ――ああ、やっぱりいた。

 互いにそう思った。

「私……、何のためにタケちゃんの傍に、いたのかなあ……」
 香具弥はふらふらと、恒峨の元へ近付いた。
「……あの者は、貴女の仮の宿りなのですから――」
 黒い髪、黒い瞳――月の姫ではない証拠。ああでも、これから覚醒するのだろう。月姫として。恒峨は震える香具弥の肩に手を置いた。
「そっか……」
 香具弥はぼんやりと返事をすると、考える。では、今までは何だったのだろう。
 やはり自分は「此処」の者ではなく、竹流にとっても無意味なものだったのか――。

 香具弥はくすくすと笑い出した……そして笑いながら、泣いた。
 恒峨は表情のない銀の眼で、そんな彼女を見ながら思い出していた。

 もう何百年も前から、彼らの一族は彼女たち王族に仕えて来た。心、身体、命の全てを捧げて。
 手に入ることはなくても、その傍にいたい大切な少女。心から欲する、大切な、存在。
 だから瀞峨は月姫を、愛したこの少女を地に堕とした。

 未だに一族で語り継がれている瀞峨と能力も顔も生き写しだ、生まれ変わりではないかと、子供の頃から言われ続けて来た恒峨は、香具弥の細い肩をぐっと握った。
「月に行きましょう。貴女の、真の居場所へ――」
 香具弥は無意識のうちに、こくりと頷いていた。


 ・・・・・・・・・・


 夜の帳が下りた頃から、竹流は何か違和感を覚えていた。
 その理由も解らないまま、玉枝を自分の車に乗せて、とりあえず商店街へと帰ってきたのだが。

『確かに、今日のことは私も悪かったのかも知れないけどさ……それは謝るけど、私らとか全部切っても、あの子の面倒みたいって竹流が決めたんだから、私らと同じよーな、自分を見せない付き合い方でいい訳ないんじゃない?』

 帰り道、同じ煙草を吸いながら玉枝から食らった説教は、分かっていることだったが彼には結構効いた。
 あの少女に全てを隠してきたことが、間違っていたとは思っていない。それが最善だと、悪童と呼ばれていた彼なりに考えた。
 だが、それだけ……子供だと思っていた香具弥が、成長してしまったということなのだろうか。

 そう思うと思わず色々余分なことまで考えてしまい、竹流は車のハンドルに頭をぶつけそうになったが、事故になることもなく、無事に天野屋へ帰着しようとしていた。
 しかし家が近くなるに従って、竹流の心は逸り出す。

 ――こんな悪が傍にいていいのか、と何度も思った。でも、
『一緒にいたって、すごく遠い!』
 お前も、寂しかったんだろうか。

『何のために、一緒にいるの!?』
 ――そう言うお前こそ、どういうつもりで俺の傍にいたのか。

『それで、本当に分かり合えるわけない!!』
 ――分かり合う? 分かち合う? 何を? 誰と――?

 お前は一体、何を俺に望んだ? 一体、どうして欲しかった?
 そして、同じことを二人ともずっと望んでいたとでもいうのか?

 答えを求めるように、竹流は少し緊張しながら家のドアを開けるが――、そこには暗い闇があるだけだった。

「香具弥……!?」
 どくん……どくん……と竹流の胸が波打った。酷く嫌な予感がした。
 まだ帰ってないなんてことはないだろう。彼は一瞬、あの少年たちを疑ったが、それ以上にもっと嫌な感じがしている。
 さっきから在り続ける、この妙な違和感――。電気の点いていない家の中に、月の光が差し込む……。

「――!」
 そして、「あること」に気付いた瞬間、竹流は外へと飛び出した。

 違和感の正体はその夜空にある。
 暗い筈の夜空には丸い、丸い大きな美しい月が浮かんでいた。

「何、……で……」
 中秋の名月――運命の次の満月までには、まだ早いのに!? 何故……?
 ――まさか……、香具弥!
 妖しく不自然なほど美しい満月の下、大きな不安に駆られる竹流もまた、一人の少女を探して走り出した。


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