碧落の砂時計 青竹迷風―第2話 逢瀬(前編)―

碧落の砂時計

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 夏休み中の図書館は空席が心配されたものの、開館からさほど時間が経っていないからか、直ぐに席は見つかった。と言っても、個席は既に埋まっており、大きなテーブルの隅に腰掛けることになる。

 まだ人数の少ないテーブルにの席に、清矢郎は荷物を放る。あさぎは彼にちょこちょことついてくると、「いい?」と確認するように清矢郎を見上げながら、その隣に荷物を置いた。
 なにやら小動物のようだな、と清矢郎はふと思う。だが向かいの席では確かに距離が離れてしまうため、二人は並んで座ることにした。

 元々無口な彼なので不便はないが、いくらカップルといえども図書館でいちゃいちゃと語らうわけにもいかない。
 かと言って、あさぎもまさか一日中黙って此処にいたいわけでもないだろうと彼は考える。清矢郎は先程からもごもごと何かを言おうとしているあさぎに、ぼそりと提案した。

「昼飯、どっか食いに行くか」
「……、うん」

 あさぎはほっとしたように、素直に頷いた。逆にその表情に、折角のデートを白けさせたわけではないことに、清矢郎もまたほっとしていたのであった。

 冷房の効いた静かな室内で、紙を捲る音やペンを走らせる音が少年の耳に聴こえてくる。ごくたまに横からTシャツを引かれ、年下の彼女に文法などの質問をされて、それに答える。
 また無言が訪れる。ふと隣を見れば、少女が黒髪をかき上げながら熱心に英単語にマーカーを引いていた。視線に気付いたあさぎが清矢郎の方を振り向くが、彼は何も言わずに再び自分の参考書に眼を落とした。

 すぐ隣に少女の息吹を感じる。四年間も避けていた彼女が、本来、家族が知りうる日時にしか会えない筈の血の繋がった従妹が、当たり前のように一人の女として、自分の隣で自然に過ごしている。

 それを「幸福」と分類できるものに彼は感じ、こういうのもいいものだな、と一人で頷いていた。


 ・・・・・・・・・・

「ごめんね」

 昼下がりの路上で車の雑音に混じりながら、あさぎが清矢郎に対し、唐突に謝った。

 昼食を取った後、二人は本屋に寄ったりと目的もなく歩いていた。今日来ている場所は二人が通っている高校のある市内であるので、互いに土地勘もあり、時間を潰せる場所も知っている。食事の場所も、あさぎが友達と入った事があるというお気に入りの店にした。

 再び図書館に戻っても席はないだろうということから、まだ早い時間ではあるがなんとはなしに、足は駅の方へと向いている。その途中であさぎはそう呟いたのであった。

「何が」

 清矢郎はあさぎを見下ろす。彼女は口を尖らせると、指を組んだ手を前に伸ばしてぶつぶつと言う。

「受験生、付き合わせて悪いなって。結局、勉強もちょっとしか出来なかったし」
「……別に二十四時間勉強してるわけじゃねーし、こっちだって息抜きくらいしてえよ」

 無表情ではあるが、内心では彼女にそのように気を遣わせて悪いと思った清矢郎は、即座にそう返した。あさぎの戸惑いに、ないようでしっかりとある二つの年の差を感じている。
 まだ高校生であるため、学年が違えば互いに互いの置かれた状況は理解出来ないものであろう。特に彼女は、清矢郎がすることは二年経たないと経験出来ないことなのだから。

 そう思いながらもにこりともしない彼に、「家族」としてはその表情に慣れてはいるものの「恋人」としては不安を感じるあさぎは、しつこく問い掛けてしまう。

「ほんと? 息抜きになってる?」

 四年という口をきかなかったブランクが二人の間にあるが、その前までは幼いあさぎがこんな風に彼にまとわりついてきていたことを、二人とも既視感を持って思い出していた。
 あさぎは清矢郎に甘え、清矢郎はそんなあさぎを疎ましいと思わず、寧ろ懐いてくれて嬉しいと感じていた。
 そしてその感覚を、二人は取り戻そうとしていた。

「あー。なってるなってる」
「なら、こっち見てよー」

 そう言って清矢郎のTシャツをまた引っ張るあさぎに、彼は伸びる、とそれを離させると歩きながら彼女を見下ろした。

「思ってもないことは、俺は言わん。……それに――」
 
 きっぱりと言われた彼らしい言葉に、あさぎは眼を瞬かせて彼を見詰め返す。しかし彼がもう一言何かを言いかけたため、
「それに?」
と再びTシャツを引っ張った。

 清矢郎は思わず口走ってしまったものの、あさぎは最初の言葉で納得していたようであったので、やはりそこで終わらせておけばよかった、と後悔するように汗をかいた頭をがりがり掻いた。返答に困り、あさぎにTシャツを引っ張られていることも忘れるほどである。

「言ってくれなきゃ、恐い……」

 更にあさぎはそこで急に心配そうに眉を寄せると、両想いになる前のような不安な表情で清矢郎を見詰めてきた。

 ――確かに、まだ付き合って一週間なのだ。信じては欲しいが自分は「前科者」であり、確かなものなど、何もない。
 そう思った清矢郎は、さてどうしたものかと押し黙った。

 
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