碧落の砂時計 月姫異聞―ACT32 月姫覚醒―

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 旧暦八月の十五日。今では九月にあたる中秋の名月の日に、香具弥を乗せる月行きの汽車が出ると恒峨は言った。 
 今はまだ夏休み中でその満月にはまだ早いはずなのに、空には何故か大きな丸い月――。
 誤解しあったままの香具弥を、月には還したくない。不思議な満月と香具弥がいなくなったという事実に嫌な予感がした竹流は、恒峨が寝泊りしていたという公園を目指した。
 しかしそこには人影はなく、彼は無言で土管を蹴った。

 すると――、
「「やはり、何か、あったんですね…」」
竹流の後ろから呆然とした龍と燕が口を揃えて声を掛け、その隣には火衣そして御行が息を切らして立っていた。

 なんでお前らがここに……?という言葉すら失ったように、竹流は無言で四人の少年を振り向いた。
「香具弥が、どっか行っちまうって言ってたんだよ!」
 その問いを聞く前に、火衣がそう叫ぶと竹流を睨みつける。
「様子がおかしいとは思っていたが、今夜急に飛び出すとはな……」
 御行も言葉を続けた。それらの言葉から、四人が言いたいことは、ただひとつ。
「オメーが、しっかりあいつを安心させてやらなかったからだぞ!」
 じゃなければ、こんなことには――。火衣が苛立ちのまま竹流に向かってそう叫び、それを皮切りに五人は再び香具弥を探すべく公園を走り出した。

 ――コイツには叶わない、と本当は四人共分かっていた。
 最初に、香具弥が自分たちの告白から逃げて、竹流の元へと走っていったのを見た時から。
 彼女にとっては、「家族」の方が大事なのだ。
 それなのに、その純粋な気持ちを竹流が守ってやらなかったこと、そのことが少年たちには腹立たしく、悔しかった。


 ――タケちゃんが悪いわけじゃないよ……。
 恒峨に従って歩きながら、香具弥は思っていた。
 もしかしたら自分の方が悪かったのかも知れない、もっとずっと前に素直になっていれば、よかったのかもしれない、と。
 だが、もしかしたら始めからこうなる運命だったのかもしれなかった。何の義理も縁も無い少女をよく見返りもなく、まだ年若い、その上自分すら大事にしないような青年が青春を棒に振って育ててくれたと、香具弥は心からありがたく思う。
 しかしそうは言っても竹流もまだ若いので、自分さえいなくなれば、これから彼の人生やり直しがきくかもしれない――彼女はそうも思っていた。

 香具弥は怖くて聞けなかったが、もし竹流に、自分と一緒にいて幸せだったかと尋ねたら、彼はそうだと答えるのだろう。優しく香具弥の頭を撫でてくれるのだろう。
 何故なら彼が彼女に、優しくない面を見せるわけないのだから。態度はぞんざいであっても、彼の中の負の感情を香具弥に対してぶつけることを、竹流は決してしないのだ。
 それが彼の本音であったり本性であるのかは、分からないが。
 香具弥はそのことに本当に救われてきた。しかし、それだけでは何かが足りないと、いつの頃からか思っていた。
 それが「何」なのか、どうしてそんな風に思い始めたのかは、少女には説明つかず、だからすれ違ったままでいるのだが……。

 未だ迷う香具弥を導き、「ある」場所へ辿り着いた恒峨は、月に向かってすっと手を伸ばした。
 すると月の光を辿ってそれを線路とするように、一両編成の汽車が上空から降りてきた。
 本当に、銀河●道9三つのようだ……と、香具弥は思ったが、実際にそれを目の前にすると、急に躊躇われてしまう。
 ――竹流の顔が心に浮かんだ。離れたくない! と焦り出した。
 せめてもう一度彼に会いたいと、香具弥は慌てて振り返ったが――、汽笛がどこからか耳に聞こえた時、月の光が一層強くなって香具弥を包み込み、彼女は動きを止めた。

 そして月の光を浴びたからか、その光と同じ黄金の輝きを持った瞳と、同じように黄金の光が反射する髪に少女の姿は変化すると、そのままゆっくり恒峨を見上げる。

 その「彼女」の思考から、「竹流」という存在に関わる記憶は一切、失われていた。

「さあ、『月姫』――、参りましょう」
 そしてその言葉にこっくりと頷くと、恒峨の差し出す手をとり、少女は汽車へと足を踏み入れた。


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