碧落の砂時計 月姫異聞―ACT33 名前を呼ぶ声―

碧落の砂時計

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 竹流の記憶を恒峨に消され、月行きの汽車に乗り込んだ香具弥。一方、
「あれは――!?」
彼女を探し回っていた四人の少年は、月から「ある場所」へと真っ直ぐに伸びている強い光を離れた場所から見付けていた。

「何だあ!?」
 そのまばゆい光が差し込む「ある場所」へとたった今、竹流が到着した。
 ある場所とは――、町の外れにある竹薮だった。

 幼い香具弥と竹流が出会った場所。罪を受けていた月姫が閉じ込められ、そして再生した場所。

 眼の眩むような太い月光の柱の中に、香具弥の姿は見えない。ただ汽車のような大きな黒い影が朧気に見える。――きっと、あの中に香具弥は乗っている! 彼はそう直感した。
「香具弥!!」
 竹流は大声で叫んだが、香具弥の耳には届かないようだった。しまった、なんであの時、一人で家に帰したか――と思ったがもう遅い。


 ――来たか、と恒峨は光の中から、後ろを少し振り返った。
 しかしこの姫の想いに気付けなかった、彼の負けだ。恒峨はそう思いながら月の光を浴びて金色の光を放つ、「香具弥」であった少女の肩をそっと押す。
「今誰か、何か言った……?」
「いいえ、何も……」
 恒峨は優しく微笑んだ。
 曽祖父の瀞峨が愛した姫。一族が全てを懸けて仕える、愛しい月の王族の少女。
 ……五人目の求婚者は、結局「誰」のことだったのか。たとえあの者だったとしても、放棄したのだから。だったら、その座は――。
「もう下界の事は、お忘れください。これからは、天上で暮らすのですから」
 香具弥――「月姫」は、こくりと頷いた。
 そして恒峨は乗り込んだ汽車の一席に少女を座らせ、彼は運転手に発車するように言うため、一人で先頭車両へと向かったのだった。

「でも、誰かが呼んでいるの……『火衣』? 『龍』? 『燕』? ――『御行』?」
 金色の少女はそれでも「誰か」に呼ばれている気がして、何処かで聞いたことがある名前を呟くが、下界の事はついさっきまで「其処」にいたはずなのに、何も思い出せない。
 ――ああでも、遠くでトモダチだった人たちが私を呼んでいる。きっとあれは、私が生んだ子供たちの、その子孫。
 私の大事な子供たち――さようなら。

 でも……、あとひとつ、声がする。
 哀しい声。「私」が聞いたことが、ない声――。

 それは「月姫」が唯一、「月姫」であった時に出会っていないモノだった。それは「香具弥」として再生してからの記憶にある、最も大切なもの。だから月姫には、それが何なのかどうしても分からないのであった。
 しかし何処となく、自分に地上の子どもを生ませてくれた、あの青年の声に似ていると思っていた。

 しかし、彼はもう死んだのだ。もうこの世の何処にもいないのだ。
 あの時、罪を犯したと瀞峨に宣告された。でも、許されるのだと瀞峨の子孫は言う。
 ……でも許される――のに、嬉しくない。
 「彼女」のぼーっとしていた頭が段々、冴えてきた。

 「許される」ということ。そう、それは自分で自分のしたことを、罪と認めることなのだ。
 碧い地球で暮らすこと、それが少女の夢だった。そして命を育んでいくこと――。確かに夢は、刹那的にではあるが叶ったのだ。
 だから月に還らなくてはいけない。想い出だけを胸に……。

 ――違う!!

 がんがんという頭痛を感じながら、少女は金色の髪を激しく揺らして首を振った。

 私の夢は、そんな簡単なものじゃない!
 月には還りたくない! 私の夢は、地上で暮らすこと、地上で命を育むこと。それは、自分自身の命もいつかこの土に埋めて、大地や緑の一部になりたいということ。
 だから竹に寄生させられていても、月に帰るよりよかった。だけど私は許されてしまい、竹から外へ出された。その胎児から赤子へとなり元の年齢に戻るまで、「誰か」に守られて生きていたはずだ。 

 それは、誰? 「私」は今度こそ「私」の夢を叶えるために、その人に出会ったんじゃないの!?

『この子の夢を奪うような奴らには――***は、やらねえ』

 ふと記憶にないはずなのに蘇った、低い声。
 それは今、少女を呼んでいる気がするあの哀しい声と同じ響きをしていた。
「……あなた、なの……?」
 「月姫」は立ち上がった。


 ・・・・・・・・・・


 とにかく崩れた人生を送ってきた竹流だったが、あの日出会った幼い少女のことだけは何があっても守ってやろうと思い、また己のような人生を歩ませたくなかった。
 だから彼女には絶対に自分の本性を見せたくないと、彼は思っていた。何かを壊しては生きていた、元来の本性だけは。
 だが今見せているような姿では物足りないと、香具弥は言った。玉枝の知っているような彼を見せろと。そこまで、全て見せないと、分かり合えないと、少女は要求してきた。
 ――そんな簡単に分かり合えるかよ、人が、と竹流は冷笑を浮かべたものだが、
「……つまり、どんな手を使ってもいいってことだろ?」
香具弥自身からの許しが出たこともあり、昔の悪びれていた頃の人相に戻って、お姫様奪回を謀るのであった……。

 月の光が強すぎて遠くからでははっきりと見えない汽車だったが、その光の柱の中に思い切って入ってみると、黒い車体がはっきりしてきた。
 呼んでも駄目なら、仕方ない――。
 竹流は乗れるかどうか分からないが、まだ動き出していない汽車の空いている扉から中に入った。あっさりと中に入ることが出来、意外に普通だ……と、まるで田舎のローカル線のような汽車の様相にこんな時だが思わず脱力した。

 すると、
「お客さん、切符は?」
とこれまた普通の中年男性の車掌がやってきた。
「ねえよ」
 当たり前だとばかりに、あっさりと竹流が答えると、
「キセル乗車ですか!? それは困ります! 降りていただかないと……」
車掌は焦って竹流の腕を掴んで、彼の乗車を阻んだ――が、一秒後、
「これで、代わりにしとけ!」
そんなのに構ってられる暇はねえと、竹流は車掌の顔面に一発拳を打ち込んだ。

 そして「元・悪」は、一撃でその場に倒れてしまった車掌を全く無視して、香具弥を探すべく再び走り出す――。


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