碧落の砂時計 青竹迷風―第2話 逢瀬(後編)―

碧落の砂時計

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『――責任、とってよ』

 この秘密の恋人関係が始まるきっかけとなったのが、彼女のこの言葉である。

 四年前、清矢郎はあさぎに対して罪を犯した。まだ十二歳であった彼女を性の対象としてしまい、深く傷つけた出来事。
 彼は罪を償いたいと思っていた、相手が何より大切な少女であったから。その代償として、彼女が「自分」を求めてくれたことを、申し訳なく思うほどだ。
 あさぎと結ばれることでその罪を帳消しにしてもらえたとしても、罪には変わらず、彼は彼女に対して負い目があった。
 責任の取り方など少年には分からないが、彼女が望むことは、全て叶えてやりたい――それが彼なりの少女への「愛情」であった。

 しかし彼女が望んだからと言っても、結局は自身の欲望の為に、彼はこの少女を抱いてしまった。身体が傷ついたのは、今回もやはり彼女の方なのである。
 痛がるあさぎの表情が、清矢郎は今でも忘れられない。再び心を壊してしまったのではないかと内心では不安に思っている。

 こんなおかしな関係が、「恋人」と言えるのか分からない。だが、誰にも譲りたくない、ただ大切にしたい、この二つのことは、今の清矢郎には彼女以外に抱かない感情であった。
 だからこんな風に彼女を怯えさせるようなことは、二度としたくないと彼は思っていた。


 そうしたことから、清矢郎は不安そうな顔をするあさぎを邪険に出来ず、再び眼を逸らすと、はあーっとため息をつく。そしてこいつには勝てない、と観念したように言葉を続けたのであった。

「『あれ』から、あさぎが、どうだったか……大丈夫だったのか、気になってたから」

 ――だから、顔が見たかった。

 「あれから」というのは、二人が最後に会った――初体験を済ませた、一週間前のことだろうとあさぎにも理解できた。彼女は清矢郎を見上げたまま、ほんのりとその頬を染める。

 言葉少なだが、これには様々な心配を含んでいる。あさぎの体調も、心理状態も、家族に知られていないかと言うことも。勿論、初めてのことであるのであれで避妊方法が正しかったのかも、少年には自信がない。
 多く語らない清矢郎であったが、彼を誰よりも理解しているあさぎは、彼が優しさから自分を案じてくれているのだろうと、その一言で察した。

「大丈、夫……ばれてないし。もう、痛くないし、……せ、生理も、今日来たし……」

 今度は俯くと恥らいながら小さな声で言う少女の言葉を、清矢郎はほっとした気持ちで聞いていた。
 その反面、避妊方法はやはりあれでよかったのかと安堵したり、期待はしないでおこうとしていたが今日は「出来ない」のだな、ということを思ってしまう自分の俗物ぶりに、どうにも嫌気がさしていた。

 だから彼は最も尋ねたいことを聞くことはなかった。

 ――本当に、自分と「した」ことは、嫌ではなかったのか。また触れたいと思ってくれているのか。

 もし自分を嫌ってしまったのならば、もう会いたいなどと言わないだろうから、とりあえず嫌われてはいないだろうと清矢郎は思うことにした。
 だが、彼女が実際の体験後、セックスの方に嫌悪感を持ってしまった可能性もないとは言えない。

 清矢郎が悶々と考えている胸の内は、あさぎには見えない。彼女には彼が今でも清廉な竹に見えていることを、彼は知らない。
 しかし彼があれからずっと彼女を気にしていたことを知ったあさぎは、もう一度清矢郎のTシャツを引っ張ろうとした……が、その指をくっと握り一旦手を引くと、今度は固く締まった太い腕に直接触れた。

 少女の柔らかく少し冷たい手の感触に、清矢郎は自分でも驚くほど胸を波打たせ――表情にだけは出さないよう努めたものの――、あさぎを見た。

「せいちゃんが、い……いやじゃ、ないなら、……どっかで……くっつき、たい」

「――」

 清矢郎の眼鏡の奥の細い眼が、点になった。

「嫌ならいいよ」
とあさぎは消え入りそうな声で言い、耳まで赤らんで俯いている。えっちな子だと思われていないか、と少女はまた心配になっているのであった。

 ――まさか。この一週間、「触れたい」と思っていたのは、互いに同じ気持ちであったのだろうか。

「嫌、じゃねえけど……」

 喉がやたら渇きそんな事しか言えない自分が、二つも年上のくせに情けない、と清矢郎は悔しく思っていた。


 ・・・・・・・・・・


 そして三十分後、駅の裏手をしばらく歩いたところにある、人気の無い小さな公園の物陰で、一組の男女が周囲を気にしながら、互いの息遣いが聴こえる距離まで身を近づけていた――。


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