碧落の砂時計 月姫異聞―ACT35 願い(後編)―

碧落の砂時計

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「……それにしても――、」
 そこで再び笑顔を消すと、恒峨はため息混じりに呟いた。

「「殴られ損、だったな」」

 竹流はそう言うと同情するように、溜め息をついた。もっともあのプライドの高い月の使者のことだ、そんな風に彼に思われていると知ったらもっと傷つくだろうが。
「何が?」
「なんでもねえよ。何だかんだ言って、悪人じゃなかったな、アイツは」
「恒峨さんのこと……?」
 聞き返した香具弥はその言葉に同意して、こっくりと頷いた。

 ――仕事第一みたいな人なのに、最後は私の気持ちを優先してくれた。何だかんだ言っても、私の故郷の人で優しかった。そして私の「本心」に気付かせてくれた――。
 香具弥がそう思い、感慨に耽っていると、
「何? 月に戻ればよかったとか、思ってんの?」
意地の悪い笑みを浮かべて、竹流がそんなことを口にする。
「思ってないよ!」
「ホントは奴が五人目の求婚者だったら――とかさ」
「今更何言ってんの!? タケちゃんの、ばかっ!」
 気が付けば、香具弥は先程から竹流の膝の上に座ったままなのだが、それよりもこれだけの覚悟を決めさせたくせに尚もからかう彼への怒りが勝り、その目の前の胸をぼかすかと叩いた。

 ――でも、五人目の求婚者って……、結局誰だったのかな?
 もしもこの先まだ、その人物が現れることがあるなら――、いやいっそ……「彼」であったらいいのに……。
 そう思った香具弥は、竹流のTシャツをぎゅっと握り締めた。

「タケちゃんは……、私がいて、迷惑……?」
 そのまま汗をかいている青年の胸に頬を寄せ、ぽつりと尋ねる。今まで勇気がなくて問い掛けられなかった、その質問。彼が本気で答えてくれるかも分からず、恐くて言えなかったその言葉に、
「――いや、全然」
同じくその気持ちを言葉にしてよいのか分からなかった竹流も、ゆっくりと素直に答えた。本心を言わないことで彼女を失うなんてことは、もう御免であったから。

 その言葉によかった、と香具弥も心から安心して微笑む。
「ていうか、タケちゃん、ちょっと性格変わったね」
「あ? そーしろっつったのは、おめえだろーが」
「そうだけどさ!」
 香具弥ががばっと顔を上げると、今までとは少し違う表情に見えるが、おそらく心から笑っているのであろう、竹流の笑顔にぶつかり――思わず心臓が高鳴って、言葉を失った。
「嫌なら、やめるけど」
「い、嫌じゃない!」
 慌ててそう言う香具弥を竹流はさも面白そうに笑い飛ばすと、優しくその頭を撫でた。

 大きな手で、頭を撫でられて――。
 そんな風に見詰められて――。

 ……あれ? 何だろう。今までと……?

 そんな事を互いに感じながら、竹流の手が香具弥の柔らかい頬に触れると、香具弥は身をびくんと震わせた。
 その大きな手が、ためらいながらも少女の頬をそのままそっと撫で始める。いつか見たあの鋭い眼で、己の眼を見竦められ、香具弥は軽い恐怖を感じると共に身動きが取れなくなる。

 ――怖い。でも、何か――。

 自分でも知らない身体の奥が本能的に熱くなり、それがいけないことのような気がするのに、何か、期待してしまう。
 人間として生きていく月の少女が、ヒトとしての「何か」新しいものに目覚めようとする。その儀式のように、顎が傾けられた。――その時、

「香具弥!!」
「「「天野!」先輩!!」」
四つの声が竹薮に響き、その正体を香具弥が知る前に、二人は慌てて身体を離した。


「「心配したんですよ~! 先輩~!!」」
 龍と燕の双子が、香具弥に向かって泣きながら抱きついてくる。香具弥は二人に「ごめんね、ありがとう」と言いながらも、自分の身体が火照り始めていたことに変な罪悪感を覚えるが、おいおいと泣く二人をなだめているうちに、徐々に先ほどの言い知れない感覚も薄れていく。
「オッサン、てめえ! こんなトコで何して――ひゃ(や)めろっ」
 その香具弥の横では火衣が竹流に食ってかかるが、その頬を竹流がいつも以上に眼が笑っていない氷の笑顔でつねり、御行は私設捜索隊の打ち切りを携帯電話で告げるのであった……。


 そして、不思議な日々が終わり――。


 ・・・・・・・・・・


「いってきまーす」
 おう、今日も元気に学業に励め、といかがわしい記事が満載のスポーツ新聞を読む竹流に送り出された香具弥。金色だった髪も瞳も元の黒に戻り、彼女の中から月姫が現れることは、もうなかった。
 何故なら、「二人」の願いも夢も同じだったのだから。

 月の姫と言われたことも、秋となった今では嘘のようだが、今朝もまた火衣が現れ龍と燕が現れ、御行もやってきた。
 魔法が解けても、夢から醒めても、ただのちっぽけな「香具弥」であっても、変わらない温かな人々。


 ――そう。「私」は、大切な人達と共に、ここで生きていく――。


    ~END~


>>最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました!
少女漫画に触発されて書いたドタバタ年の差ほのぼのらぶファンタジー、初稿は今から6年前でした。ちなみにこの内容は当時の読者様から「かぐや姫」を元にしたお話を、とのリクを頂戴したため生まれました。
今ではこうしたノリのものが以前よりも書けなくなってしまったなあと思ったので、今回一度下げたものを加筆修正して再UPということにいたしました。いつかまたこういう感じの気楽にドタバタしたノリのものや、もーっとらぶらぶ度高めの(男性年上の)年の差ラブなんかも書いてみたいです。

…というかこのあとの盛り上がった竹流と香具弥はどうなるのか…(笑)皆様のご想像におまかせしますv
それでは、読んでくださった皆様、途中拍手や感想等で応援してくださった皆様に心より感謝申し上げます!ありがとうございました。



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