碧落の砂時計 もしかしたらの神様。 御礼SS② 

碧落の砂時計

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「こういうとこでゆらゆら揺られてる寝顔見るのも、いいもんですよ。見惚れてたので起こしそびれました」
「ばかたれ!」
 次の駅が近付いてきたのか、老人が一人席を立ち、二人の傍を通っていった。早海の言葉が耳に入ったのか不思議そうな顔で二人を振り返っていった。さぞかし恥ずかしい言動に聞こえただろう。祇園は早海の脛を軽く蹴った。
「寝てたら、喉渇いた」
 早海は全く気にせずにそう言うと、バッグからペットボトルを取り出してごくごくと飲み始める。祇園も自分の喉が張り付いていることに気付き、同じくバッグから飲み物を取り出す。ぬるくなった緑茶で喉を湿らすうちに、眠気もすっかり覚めた。短時間でも深く眠ったことですっきりしたようだ。おかげで午後の時間は思い切り楽しめそうだ。

 車で行かなかったのは、「あの日」の自分を思い出してしまいそうで恥ずかしかったのもある。今夜泊まる場所は――三年前の今日、祇園が早海に告白しに行き、そのまま初体験までしてしまったあの旅館なのだから。

 ・・・・・・・・・・

「懐かしいなー」
 早海は旅館の前で眼を細めた。祇園と言えばそれに大人しく同意できない。彼女にしてみれば、「まだ」三年前のことなのだ。隣の青年への恋に狂った自分を思い出すと、恥ずかしくてたまらない。
 宿の人に挨拶することになるのも何やら気恥ずかしいが、早海はここで二年連続、夏休みに住み込みのアルバイトをしている。二年ぶりに訪れてもまだ覚えられていたようで早海が声を掛けられれば、一緒に挨拶せざるを得ない。
 自分のことを可愛いとは思っていないため、早海と並ぶと祇園は俯きたくなるが、社会人として少しは対人スキルも身につけたため、引きつった笑顔でもきちんと頭を下げた。ぺらぺら挨拶するのは差し出がましいだろうと思い、それはしなかった。
「今日は働く気はありませんからねー」
 早海は肩を竦めて笑うと、荷物を担いでフロントを後にした。

「あれでいいの?」
 宿泊部屋に到着して二人きりになった途端、祇園は早海に尋ねた。
「ええ。世話にはなったけど、毎年同じメンバーでバイトしてるわけじゃないから、知り合いばっかでもねえし、挨拶だけできれば。それにさっきは冗談で手伝えって言われたけど、向こうも彼女が一緒なら遠慮するでしょ。折角なのに居心地悪かったらすみません」
「ううん。近いし、意外とお値打ちだし、私ももう一回ゆっくり泊まってみたかったから、いいって言ったんだんだけど……」
「いいとこですよね、ここ。俺も一度客として泊まってみたかったし。でもそれだけじゃなくて、あの時部屋で祇園さんが何考えてたんかなーとか、想像するのも楽しいし、どっかからあの時みたいに出てくるような気がして」
「それは言うな!」
 予想通り三年前のことを掘り起こされ、祇園は早海の腹に軽く拳を入れた。うずくまる早海のことはさておき、荷物も置いたところでさざなみの音に反応し、祇園は窓の前に立つ。近くに海水浴場もある。泳ぐのは苦手で水着姿も見せたくないが、他にすることもないので今日は海に行こうと約束したのだ。
 三年前の今頃は、斯波研究室にまだ居ただろう。自分の泊まった部屋は何処だったか。そこが初体験の場所だが、きっと他の客が泊まっているだろう。早海に会えたのは厨房の裏だったが、のこのこと出向き従業員に迷惑も掛けるつもりもない。祇園は意を決して顔を上げると、海を指差して言った。
「行こう!」
 少女から大人になる時の思い出は思い出として、また新しい思い出を早海と作ろう。あの日までのことを思い出すと少し胸がきゅんとするが、それをきっかけに全てがよい方向に動き出したのだから。そういう意味ではあの日が記念日だと言えそうだった。
 呆気にとられていた早海だったが、「そうっすね」と破顔して頷き、水着を掴んだ。

 ・・・・・・・・・・

 成人しているが、まだまだ青春真っ盛り。海で数時間遊んだ後、二人は宿に戻って温泉に浸かる。
「家族風呂、予約しておきましたから」
 にーっこりと早海に妖しく微笑まれ、祇園はぞくりとしたが逃げられるわけもない。第一、海で泳いだ後なので早く身体を流したい。白い肌は日焼けのため湯が少々染みたが、大丈夫ですか? と早海にそっと撫でられ、いつの間にか泡で全身を洗われているうちに、痛みよりも違う感触の方が勝ってきてしまった。
 そのまま一回目の――お楽しみ、となる。
「や、やだ、こんな、とこ、でっ」
 壁に手をつかされた祇園が苦しそうに後ろを振り向くが、その準備もちゃんと持ってきていた早海に解放されるわけがない。
「声、上げると、聞こえ、ますよ」
「でも、ぅっ!」
 流石に露天風呂ではなく、室内の小さな浴室で。立ったままの窮屈な姿勢だが、いつもと違うシチュエーションと格好で、泡だらけの祇園は裸の早海にしばらくの間腰を揺らされ続けていた。

「ばかたれ……」
 多少のぼせてしまった祇園は浴衣にどうにか着替えた後、早海の膝の上にぐったりと横たわっていた。
「そんな無防備な格好していると、また襲いますよー」
 同じく浴衣を着た早海は、彼女を団扇で扇ぎながら楽しそうに笑っている。
「心配、くらいしろよ!」
「もちろん。してますよ。でも我慢なんざできませんけどね」
 これは祇園に対する欲望の方が勝っていることを柔らかく言うために、ただ敬語を使っているだけだろう。
 何と言う後輩だろうか。祇園は諦めたように、その締まった太腿の上で寝返りを打った。風呂上りなので彼の脚からも同じ匂いがする。父親や知り合いの男性と比べても、早海の体毛の量は少ない気がする。女の子のような容姿だったのも納得がいく。
 そうは言ってもこれだけの色男が自分なんかにここまで執着してくれるのは、嬉しいものだ。三年もこれだけ近い距離で肌を重ね続けているのに、なおも求めてくれるのだから。
 家族風呂を予約、だなんて宿の人々にどう思われているか、と心配になった祇園だが、そもそも二人でひとつの部屋を予約している時点で、愛の営みが行われると思われてもおかしくないだろう。そうは言っても家族風呂は、「一緒に風呂に入ります」と宣言しているようで恥ずかしいものだが。
 それにしても、早海は本当に風呂でのあれが好きだよな――などと祇園が考えているうちにも夕食の時間になり、美味しそうな料理の並ぶ大広間にやって来た。


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2009.04.12 13:49 | 更新報告・制作情報 | トラックバック(-) | コメント(-) |
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