碧落の砂時計 もしかしたらの神様。 御礼SS③

碧落の砂時計

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 三年前の今の時間より少し前に自分が到着して、ここで働いていた早海の前に現れたのだ。そう思うと忙しい時間に来てしまったんだな、と今更ながら向こう見ずだった自分を反省する。
 部屋で食事が取れるほどの予算はない。なので他の客と一緒の空間での食事だが、思ったより隣の席との距離があり、ほとんどの料理が先に並べられていたので話もゆっくりできそうだった。それに三年前はそれこそ急な宿泊で、食事は外で簡単に済ませた。だから祇園はここでの食事も楽しみのひとつだった。
「もう気分はいいですか?」
 祇園は頷いた。
「飲みますか?」
 また頷いた。早海に促されるままビールを注がれる。もうすぐ結婚するかもしれないのに、こんな先輩面をしていていいものか分からないが祇園も彼にビールを注ぎ、「乾杯」とグラスを合わせた。

 先ほどの家族風呂の件といい、まるで婚前旅行だな、と祇園が思った瞬間、
「なんか新婚旅行みたいですね」
 と早海にさらりと言われ、思わず膳に頭を打ちつけそうになる。赤くなって彼を睨んだが、
「でも新婚旅行は海外とか、もっと遠くに行きましょうね」
早海はどこまでも勝手な皮算用を続ける。
「その前に式挙げないとですよね。少なくとも祇園さんのお父さんには喜んで欲しいですから。となるといつがいいのか、どれくらい範囲まで呼ぶのか……」
「ちょっと待って」
 祇園は両手で早海を制すると、彼のグラスが空であることに気が付き、もう一杯注いでやった。すると逆に祇園もビールを薦められ、勢いをつけるように飲み干すと注いでもらい、ほろ酔い気分で早海に突っかかる。
「き、気が早くない?」
「何で? いよいよ就職決まったし。一緒に住むんなら、けじめつけた方がいいだろ」
 うわ、敬語じゃないんだ! と心の中で突っ込みを入れた祇園。どうやら彼も本気モードらしい。眼が据わっている。
「で、でも早海が就職してすぐなんて、会社の人だって……」
「嫌なんだ」
 そのうえ、ふっとあの昔の暗い眼に戻るのだ。祇園はこの眼に弱い。
「ちがうー!」
 周りの迷惑にならない程度の声を上げて、祇園は慌てて否定する。こんなところで、あの三年前までよく心配していた恐い眼に戻られても困る。その眼でこちらを見られ、祇園は言葉に詰まった。

 早海も少し暑いのか、浴衣の胸元を肌蹴ている。袖も半袖のように捲り上げ筋肉のついた腕が見えている。童顔のくせに日焼けの赤味も手伝って妙に艶かしいぞ、と祇園は妙な気分になりながら料理をもそもそと口に運んだ。
「子供が先にできたわけじゃないんなら、色々言われたとしても、こっちの都合でいいと思うけど」
「ん……」
 早海の父親のことなど心配なことはたくさんあるが、そちらは時間がかかりそうだ。三十歳までに結婚できればいいと彼の実家の和解を優先すべきか、それとも祇園も子供が欲しいので先に結婚し、孫の一人でも生まれれば彼の父親も変わるか。
 早海の父親のことまで口に出せば、折角の思い出の場所なのにどんどん空気が悪くなりそうだ。祇園も自分の都合だけなら結婚が早いのは嬉しいので、早海の言葉に小さく頷いた。
「貯金もそれなりにしてきたから、なんとかなるよ。でも子供養うこと思うと、確かに俺が就職してもっと金稼いでからの方が、祇園も安心だよな」
 食事をがつがつと食べる早海に乱暴な口調で名前を呼び捨てにされたが、言っていることは祇園のこと、家族となる者のことをよく考えてくれていると分かる。祇園も海の幸に舌鼓を打ちながら何度も頷いた。
「いずれにせよ、一年以内に何らかしらは動きてえけどな。式場見に行くくらいは」
 ひえええええ、と祇園は身体が熱いのか凍るのかよく分からない感覚に陥った。照れ臭くてまだブライダル雑誌も手に取ったことがないという祇園なのに、早海はどんどん具体的に考えているらしい。
 こうしたことは男性の方が面倒臭がるようなことで、祇園の方も苦手であるため、早海が積極的になってくれることは助かる。受身でいてもいけないが、そういった理由から早海に話を進められても引いたり、拒絶したくなるようなことはなかった。自分ももう少し調べなきゃな、と反省する。雑誌を買うのは恥ずかしいが、インターネットでまずは研究しよう。結婚自体は楽しみなことなのだから。

 「わ、わかりました」と何故か祇園の方が敬語になって呟いた後、緊張をほぐすようにビールを飲み込むと慌てて早海に訴える。
「じゃあお金いるんだから、ここでいっぱい使ってたら駄目だよ」
「この後引越しも控えてるから、ちょっと早いけど今回が卒業旅行のつもりでいますけど、今日飲み食いするぐらいの余裕はありますよ」
「私、社会人なんだから、今回は私が――」
 瞬間、再び早海の眼の光が冷たくなる。しまった、と祇園の背筋も凍る。また余分なことを言ってしまったらしい。昔からこれで、何度早海を苛つかせているのだろうか。
 また反省するものの、収入については確かに今は自分の方が上なのだ。だからそう思ってしまうのだが、そう言われて嬉しい男性はあまり居ないだろう。
「それくれえの余裕はあるってんだろ」
 同じ言葉なのに急に口調が粗雑になった。ごめんなさいーと祇園は肩を竦める。それでも相手は学生なのに悪いな、と思ってしまうのは責任感の強さゆえか、先輩としての習性か。そんな祇園の気持ちが分かったように、早海は大きなため息をつくと言った。
「そりゃ祇園のそういうところは好きだけどさ、ここに来てもっかい、こんな思いするとはな」
 「ごめんなさい」と今度は祇園も謝った。「謝るなよ」と苦笑した早海の眼光が少し緩んだのでほっとして料理を摘む。
「周りは大人ばっかりなんだよな、とかつまらねえこと考えちまうし。ひとつの差って身長追い越しても、意外といつまでもあるもんだな。一年だけで世界が全然違うんだから。中学と高校の時も、高校と大学の時もそう感じてた。あの頃は顔すら見えなかったから余計にもどかしかったけど」
「でも今は一緒に居るんだし、早海ももう就職先決まってるんだし、あと半年もすれば一緒の立場だよ」
「っても一年の差があるから、給料だってそっちの方が高いんじゃねえ」
「そっちの初任給は知らないけど、最初から早海の方が高いかもしれないし、いずれにしても男の人なんだからすぐに抜かれるよ」


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2009.05.22 08:08 | 更新報告・制作情報 | トラックバック(-) | コメント(-) |
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