碧落の砂時計 青竹迷風―第4話 背徳(前編)―

碧落の砂時計

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 そして、初めてのデートから十日ほどが経ち――花火大会を兼ねた夏祭りの日がやってきた。
 これは清矢郎の住んでいる市では夏の一大イベントに当たるため、大勢の人々が訪れる。
 中学や高校の同級生くらいには会うかもしれないが、自分やあさぎの家族やその共通の知り合いと会うとは思えず、彼はあさぎと其処に行くことを決めた。

 何度も言うように、清矢郎は昔からの習性で彼女に甘くなってしまう。また辛い想いをさせた四年間の分、幸せにしてやりたいと思う気持ちも強くあった。
 だから望むことは叶えたくなってしまうのであった。

 四年前の事件より前に、幼い二人で行ったことのある夏祭り。あさぎがそこにもう一度二人で行きたいと言うならば、一緒に行きたいと清矢郎は思った。
 そうすることで昔の自分たちに戻れるような、そんな錯覚を彼もまたしていたのであった。

 ――後ほど、それがただの理想であることを知ることになるのだが。

 何にせよ、二人は最寄り駅でその日の夕刻、待ち合わせた。祖母の家のあった場所は、清矢郎が今住んでいる市にあたるので、あさぎに此処まで来てもらわねばならない。
 携帯電話とは便利なものである。この一台で、秘密の付き合いが続けられるのだから。
 親に全てを話す必要もないだろうが、知られれば嘆かれることを隠れてこそこそしていることが「善」だとは、清矢郎も思わない。

 それ以前の問題で、己は性欲に負けて従妹の、まだ高校一年生の少女を抱いてしまったのだ。流石にこれは誰にも言えないことだろうと、彼にも自覚はある。
 それでもあさぎは彼を必要とし、彼もあさぎの傍には居たいと思っている。
 そうしたいならばもう、嘘を嘘で塗り固めるしかないのだ。罪悪感が常に伴っていても、周囲に二人の仲を認めてもらえるような、大人になるまでは。

 若さに任せて眼の前の快楽に溺れる同世代の男女のように、自分たちも割り切って上手くやっていかねば、子供に「恋愛」など出来ないのである。
 そんな嫌な考えを振り払おうとするように、清矢郎は改札口を出たところにある大きな柱に凭れながら、夏の夕方の色褪せた空を振り仰いだ。
 そして駅に到着したというあさぎからのメールを確認し、携帯電話を閉じる。彼女の前では動じないふりをしていたかった。

 ――自分たちは価値観が似ている。だからきっと罪悪感があり、不安なのは彼女も同じだ。

 いや、年下で甘えん坊の彼女の方が、その不安は大きいだろう。
 泣かせたくないから付き合い始めたのに、余計に泣かせることになるのは避けたい。

 ――あさぎに、心配掛けたくない。

 そう考えるのは、彼の意地でもあった。
 人込みの中から、小さな少女を見つけるのは困難であったが、向こうの方が背の高い彼を先に見つけたらしく、人にぶつかってしまいながらも、やがて彼の元へと一生懸命やってくる。
 十日ぶりにその姿を見ただけで、馬鹿みたいに安堵する自分を、清矢郎は無表情の下で感じていた。

「混んでるー」
「仕方ねえだろ」
 あさぎは既に疲れたようにそう言ったが、清矢郎と会えてほっとしたのか、直ぐに笑顔になり、
「行こうよ」
と歩き出した。

 会場まではバスに乗る。それもやはり混んでいるが、一人だと苛々するものでも、会いたかった相手と一緒に居られるだけで、そんな感情も吹き飛ぶものだ。

「浴衣着たかったけど、用意できなかった」

 混雑するバスの中、あさぎが残念そうに唇を尖らせる。言われてみれば、今日彼女が着ているものは、皺加工の生地が涼しげなノースリーブのワンピース。
 肩から細い腕が、膝下から足首の部分がしっかりとくびれた脚が、すらりと伸びている。いつもどおり下ろしたさらさらの髪を、ふてくされたようにいじる手首には、いつもは見ない青いビーズのブレスレットが光っていた。

「……着崩れたら大変だし、また今度着れば」
 そこから眼を逸らしながら清矢郎はぶっきらぼうにそう言い、あさぎもこの人混みにそれもそうか、と納得したらしい。それに清矢郎ががっかりとした顔をしなかったことにも、彼女はほっとしたようだ。

 勿論、周囲には浴衣姿の女性が大勢おり、男である清矢郎もそういうあさぎの姿を見てみたかったという興味がないことはないが、こだわりはなかった。
 しかし浴衣でも危険だが、こんな露出度の高い格好で帰りも一人で電車に乗せるのは絶対に止めよう、少なくともあさぎの降りる駅までは送って行かねば、と清矢郎は清矢郎で真剣に考えていたのであった。

 
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