碧落の砂時計 青竹迷風―第4話 背徳(中編)―

碧落の砂時計

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 学校も違い、親公認でもないため、中々会えない二人の二度目の逢瀬。バスに揺られて花火大会の会場に辿り着いた。
 そしてバスから降りると、「人混み」ということを免罪符にするように、どちらからともなくたどたどしく手を繋ぐ二人。

「昔より、混んでる気がする」
「かもな。規模もデカくなってるし」
 昔、とは五年以上前に行った時のイメージだ。その時あさぎはまだ清矢郎に懐いており、手を繋ぎながら二人でたくさん話をし、縁日で遊んだ。
 しかし今、違う意味でこの手を繋いでいる。違う目的で、この場所へとやってきている。

 その不思議な感覚は、背徳感を併せ持ちながらも幸せなものを感じさせていた。

 ・・・・・・・・・・

 女の子は祭りの雰囲気が好きなのだろうか。どちらにせよ座れる状況ではないので、あさぎはあれも食べたいこれが面白そうと屋台ではしゃいでいる。これも昔、家族で出かけた時に、あさぎが飛び回っていたことを清矢郎は思い出す。
 変わらないなあ、と腹ごしらえをしながら、彼はぼんやりとそう思っていた。
 食べ終わったところで、今度は水ヨーヨー釣りなどに関心を示し始める少女。そこでふと清矢郎が眼をやると、「金魚すくい」の文字が見えた。

 そう言えば、それこそ昔二人でやったものだ。そのまま祖母が飼ってくれていたことも、彼は懐かしく思い出す。祖母がその金魚を仲の良い、幼かった彼とあさぎに例えていたことも。
 そしてあの事件のショックから、多感な彼女は彼のことを思い出すと、金魚の幻覚が見えるようになってしまったと話してくれたことも――。

 清矢郎が動きを止めて一点を凝視していることに、あさぎは気が付いた。
「どうしたの?」
「――やる?」
 彼はその屋台の方へ顎をしゃくると、何気なく少女に問い掛けた。あさぎの眼が丸くなる。
「……」
 そして、少し考えた後――、

「ううん、いい」
と彼女は首を振った。

 今度は清矢郎が意外な答えにあさぎをまじまじと見たが、やがて、
「悪い」
と呟いた。それにあさぎが驚いたように顔を上げる。「金魚」というキーワードに彼女は彼が何を考えているか察したらしい。
「ち、違うの。そういう、意味じゃないっ」
 清矢郎はあさぎを見た。

 ――あの日のことを思い出してしまうから、嫌なのではないか。
 彼はそう、思ったのだ。そして自分の無神経さに呆れていたのだ。

 しかしあさぎはぶんぶんと首を振る。
「『あの日』のことが、すっごく嫌だったなら、付き合ってなんて、言わないよ!」
 だからと言って、あの日のことを思い出して自慰をしていたという事実を少女の口から言えるわけもないのだが。

「違うの。あの日……、おばあちゃんちのおまつりでとった金魚見てて、いらいらしてたから。せいちゃんも中学生になっちゃったし、どう話していいか分かんなくて、今までみたいじゃなくなって、せいちゃんのこと、嫌だなって、ごめん、あの時思ってた。今は、その逆だから。だからそんな風に思っていたことは、もう忘れたいから……」

 あさぎの言いたいことの全ては分からないが、あの行為をした清矢郎を否定したいわけではない、という懸命な気持ちは伝わってくる。
「ご、ごめんね」
 反対に少女の方が謝ってしまった。

「それに、金魚は幻覚でいつでも見えるし――」
 あさぎは苦笑いするように顔をくしゃりとさせる。
「昔せいちゃんと掬って、おばあちゃんが飼っててくれたあの金魚が、そのまま幻覚になったの。だから、これ以上見えるものが増えても困るし……。それに持って帰っても、死んじゃったら哀しいし」

 ――やはり彼女は単純な自分とは違い、色々と心を砕いているらしい。

「悪かった」
 清矢郎がそう言って、頭を掻くと、
「だからせいちゃんは悪くないって――」
あさぎが慌てて言い返し、そして、

ぱあん、と大きな音がして花火が上がり始めた。

 二人で同じ方向を見上げる。もう一度、炎の華が舞い上がる。
「……久しぶりに見た……」
 あさぎが呟く。
「それこそ小学生から、見てない」
 清矢郎は今度はあえてそちらを見なかった。黙って花火を見ていた。

 
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