碧落の砂時計 青竹迷風―第4話 背徳(後編)―

碧落の砂時計

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 しかし始まったことでまた人の流れが動き、上を見上げて立ち止まっていると、たちまちはぐれそうになってしまう。
 あさぎが人にぶつかりよろけ、清矢郎がその腕を引いた。二人は顔を見合わせ、またその手が繋がれる。
「どっか、人の居ないところで見れないかなあ」
 あさぎが思わずそう言い、清矢郎は彼女を見下ろした。連続して上がっていた花火が一旦止まり、彼女もまた彼を頼るように見上げる。

「花火見れそうな場所なら、知ってるけど……でも遠いから、小さくしか見えねえと思うけど」
 あさぎの真意が分かるようで分からず、彼は遠慮がちに提案する。
「それでも、いーよ」
 しかし少女は彼の手をきゅっと握ると、はにかんで笑った。

 そして二人は何かの熱に浮かされたように、夏祭りの喧騒から、抜け出す。その手をしっかりと繋いだまま、闇へと。

 清矢郎は、背後で子供の頃の二人がまだ無邪気に金魚を掬って遊んでいるような気がした。

 ――夢を見たが、やはりもう、あの頃には戻れないのだ。

 あの、暑い夏の日を境に、全ては熱のある方へと狂い出していたのだった。もう二度と戻れないところまで。


 ・・・・・・・・・・


 そして歩いているうちに、人のざわめきが遠のき、人家のある静かな場所へとやってきた。
 清矢郎に手を引かれていたあさぎは、何処へ行くのかと不思議そうにしていた顔を、徐々に納得したものに変化させた。
「もしかして――」
 少女の声に清矢郎は歩幅を緩める。あさぎは自然と清矢郎の真横に来ることになり、彼を見上げる。
「他に、思いつかなかった。嫌なら戻るか」
 彼の言葉に彼女は首を振った。

 そしてゆっくりと二人で身を寄せ合って歩く。
 遠くに花火の音を聴きながら、二人が辿り着いたのは、祖母の家の跡地である工場の駐車場であった。

 あさぎは「門、締まってるけど、どうするの?」と清矢郎を見上げる。
 清矢郎は黙って工場の柵を乗り越えた。あさぎは驚いた顔をしたが、確かに此処は二人にとっての思い出の場所だ。興味もある。
 スカートの中を気にしながらも、昔のおてんば癖を思い出し、柵によじ登り、清矢郎の手をとって下に降りた。

 工場はそれこそ祭りだからか、無人で電気が消えており、広い駐車場の空はぽっかりと広く、二人は木々に邪魔されること無く、小さいながらも遠くの花火を望むことが出来た。
「意外によく見えるね。やっぱ、混雑してるよりも、いい」
 あさぎがそう言って笑ったことに、清矢郎は安堵した。

 そのままぼうっと立っていた二人であったが――、どれくらいそうしていただろうか。

 沈黙が気まずくなってきた。
 闇に、二人きり。

 会話が途切れ、唾を飲む音すら隣の少女に聴こえるような気がしてしまう気がする頃。清矢郎は携帯電話を開き、時計を見た。――午後七時三十分になるところである。
 あさぎはクラスの友達と此処に遊びに来ていると家族に嘘をついているようだが、彼女の母親が厳しいことを知っている清矢郎は、この関係を知られない為にも八時過ぎにはこの場所を出て家に帰さねばならないと考える。

「今、何時?」
 あさぎもそう思ったようで、心配そうに彼に問い掛けた。
「七時半」
 そう言われた彼女は、彼のTシャツを不安そうにきゅっと握る。清矢郎はあさぎを見た。

 月に照らされて見えたあさぎの表情は、

 ――離れたくない。

 思い上がりでなければ、そう要求しているような寂しそうなものに見えた。

 まるでこんな暗がりに連れ込んだことは下心があったみたいではないか、とただ思い出に浸りたくてこの場所を思いついた清矢郎は、無意識のうちにそうしていたのか、と苦悩してしまいそうになる。
 ――こんなの、従兄妹同士で、まだ一年生の女の子相手にいいのかよ。
と彼の理性は思いつつも、身体は正直に、その柔らかい肢体を再び求めたくなっている。

 ざわり、ざわりと、既に切り倒されて無い筈の祖母の庭の竹の音が、彼の心に幻聴のように聞こえてくる。


 ――ざわり、ざわり。

 あの夏の日のように、ざわり、と。

 心を、揺すられる。
 この、色香に、惑わされる。脆くも。

 情けないほどに、負ける。
 汚らしい、欲望に。愛情という名の言い訳の。


 そして全ては闇に解ける。
 駐車場の壁に隠れるように、密やかに、妖しげな息を吐き、堪えきれずにその白い肌に手を伸ばす――。


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2008.10.09 09:56  | # [ 編集 ]

>Sさん

お久しぶりです!Sさんのご活躍も、影ながら拝見させていただいておりますv
なろうの方に投稿しようかとも考えたのですが、当初はほんのちょっとの短いおまけ編のつもりだったのでブログでさらっと書こうかな~と思っていたら、結構な長さの連載になってしまいました;
この作品を覚えていてくださって、ここまで読みにきてくださって、本当に本当に嬉しいです(涙)温かいコメントまで、ありがとうございます!!
本編のイメージ壊れていませんでしょうか…。はい、出来るだけ早く更新できるよう頑張りますね♪

2008.10.09 17:10 URL | takao #KVcJ/2wY [ 編集 ]













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