碧落の砂時計 青竹迷風―第6話 葛藤(中編)―

碧落の砂時計

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※少年少女の性描写(R15以下)がある回です。

 従妹の小学生のあさぎの胸と性器を、服の上からほんの少し触ってしまった、中学二年生の清矢郎――正確には「撫でた」という方が正しいのかもしれない。
 それでも女性のそれに初めて触れた経験であり、それ以降そのようなことは誰にもせず、また、しようと思うこともなかった。

 あれから彼女が家族に話してしまったのではないかと、彼は気が狂いそうなほど緊張していたが、何事もなく日々は過ぎていった。自分が顔に出せばお終いだと、清矢郎は彼女の方は見ずにそれまで以上に固い無表情を決め込んでいたのだが。
 その内心では、情けなくもあさぎの強さに感謝すらしてしまっていた。
 そして同時に、年下でまだ小学生で女だから弱い筈の彼女に「甘えて」しまったのだということを自覚する。それをとても申し訳なく思っていた。

 ――罪を償いたい。傷つけた分、一生かけて、守ってやりたい。

 彼は哀しいほど強い彼女に対し、心底そう思っていた。
 その罪の意識が幼い頃から彼女に抱いていた、可愛い、癒されると思う気持ちを美化し、増幅させていた。

 それから、彼はあさぎのことが気に掛かるようになる。

 中学から高校に進学すると、同級生の女子の態度や雰囲気が大人びて柔らかくなり、話をする機会も増えた。級友や部の仲間として、力になってもらったこともある。
 それでもあの夏の日のような、ざわりとした衝動や衝撃をかき消すだけの心の動きは、清矢郎には起こらなかったのであった。

 同じ高校の女子に、時にアプローチを仕掛けられたようなこともあるが、それ以上にあの罪を犯してしまった相手であり――何か言いたげで、自分には見えないものを見ているような、年下の少女が会えないのに気になってしまっていた。


 そしてあの出来事から二年後、清矢郎が高校一年生の秋に祖母が他界した。
 葬儀の為に、親族があの家に集まった。二匹の金魚は疾うに死んで、金魚鉢すら片付けられており見当たらなかった。
 鬱蒼とした竹藪は、秋の風に揺らいでいた。

 あの秘め事のあった部屋で、親族達が話をしている。黒いセーラー服姿のあさぎもちょこんと座っていた。
 若干髪は伸びたものの、まだショートカットと言える短さで、それでも少し身体が丸みを帯びてきたように見える。

 祖母が亡くなったことは哀しいが、九十歳を目前にし老衰していた彼女を思えば、寿命として納得してしまうところもシビアな少年にはあった。
 あさぎも同じなのか、涙ぐむ場面はあったがいつまでも泣いているということはなかった。

 申し訳ないがそれよりもあさぎのことが気になる清矢郎は、葬儀の間もずっと彼女のことばかり見ていたのだが、彼女は自分を嫌っていると思っている彼は、気付かれる前に視線を逸らしていた。
 だから二人が視線を交わすことも、口を聞くこともなかった。
 出棺の際や火葬場、家の廊下でなど近くをすれ違うこともあったが、まるで息を潜めるように彼女は身体を萎縮させ、二人は互いの存在を其処に無いかのようにし、あの日の出来事を周囲に悟られないよう努めていた。

 それでも清矢郎は、彼女に対し、まだ罪を重ねていたのだ。
 彼女を見るたび、思い出すたびに、罪悪感と黒い気持ちの二つに覆われて潰されそうになる。
 高校の激しい部活動で身体がボロボロになるまで剣道に熱中しても、尚も欲望が残り、下手をすれば毎日でも処理をしてしまうような時に、思い浮かべるのは――あの夏の日の出来事であったのだ。

 他の女性で適当に妄想をしたり、メディアでそういうものを探したりもしてみた。
 だが、無理矢理そういったもので自身を盛り上げ、性欲を満たそうとしてみても、最後にはあのささやかで罪深い記憶に上書きされ、あの時の興奮や背徳感、心のざわめきが蘇ってしまうのだった。

 そんな自分は異常で狂っているのではないかと清矢郎は自己嫌悪に陥るのだが、他のどんな刺激よりもその時の記憶を自分でも制御出来ない何処かが求めてしまう。
 それは初めて、そして唯一触れた柔らかで膨らみを持った女の肉体であったからか。

 ――忘れられない。そんな自分が許せない。

 全てを、消し去りたい。

 それでも、快楽を伴う「それ」をしないと身がもたない。
 その瞬間は頭が真っ白になる。理性で自分を抑えられない。考えてはいけないことが、自分の意思に反して身体中に広がる。

 「あさぎ」のことでいっぱいになる。

 ――吼えたい。飢えを満たしたい。
 それが、本心。汚い本性。

 そして後に残るのは――後悔と、絶望と、虚しさと、罪の意識。

 それでも生きていかなければならないので、自分以外の人間にその罪を隠しながら、内心ではずっとひとりの少女を気にしていた。
 徐々にその髪も伸び、身にまとう空気や様相などが月日を追うごとに大人びて、女性らしく成長していく、あの少女のことを。

 
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