碧落の砂時計 青竹迷風―第7話 決意(前編)―

碧落の砂時計

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 ざわりざわりとした竹の音は、いつの間にか止んでいた。
 いや、それに心を傾ける余裕すらなかった。心臓の音がやけに煩くて。

 清矢郎は座ったままあさぎを抱き締めた。苦しそうに口を歪めていた彼女だが、それが落ち着くと力を抜いて、そのまま彼の胸に身を預けていった。

 花火はまだ上がっている。それを遠目に確認した少年は安堵した。
 ――まだ、間に合う。彼女を彼女の家族の元へと、この夜の全てを誤魔化して戻すことが出来る。
 だがこのいじらしい少女を、このまま最後まで抱いてしまいたいとも思っていた。ずっと傍に居たいと、情けなくも思ってしまった。
 それは決して口にしてはならない願い。せめてあと五年は経たないと、口に出来ない遠い言葉。

 本当に、彼女の傍に居たいならば。

 ただの性欲や征服欲などから自分の欲望を満たす為に、四年前のように彼女を傷つけるのではなく、今度こそ心から大切にし、幸せにしてやりたいと思うのならば。

「清矢郎……」

 あさぎは小さな声で彼の名前をはっきりと呼ぶと、Tシャツの袖口を握った。
 こうして触れていれば、何処となく分かる。――同じ耐え難い想いであることくらい。

 あの昔の愚行を受け入れてくれた少女なのだ。甘えん坊で守ってやらねばと思うのに、愛情であろうと性欲であろうと、あさぎならば己の欲望の全てを包み込んでしまうのではないか、とその小さな身体を腕の中に収めながら、恐怖のような期待のような不思議な気持ちを、清矢郎はぞくぞくと感じていた。

 だが今せねばならないことは、それに溺れることではない。
 自身が理性と狂気の二面性を持っていることを彼は自覚しているが、もしかしたら狂気は誰でも持ちうるものかもしれないと正当化もしてしまう。それをどうコントール出来るかではないだろうか、と。
 それは二人の現在の状態を、ただ正当化するための言い訳なのだろうか――。実際、そう言いつつ今宵も彼は抑制出来ず、彼女の口に精を吐き出してしまったのだから。

 ――従兄妹同士でこんな関係になって。一生付き合っていくだろうというのに。
 この先、あさぎが自分などに興味を失ったらどうするのだろうか。あさぎはその時、どうするつもりだろうか。

 初めて身体を重ねる時に、その覚悟をあさぎに確認した筈だった。しかし若干十六歳の彼女は、「清矢郎ではないと駄目だ」と言い張り、金魚の幻影を見せる原因となった彼に、「責任」をこういう形でとれと迫ったのだ。
 罪悪感と性欲に押し潰されそうになっていた少年は、一生彼女と添い遂げる覚悟を決めて、少女を抱いた。

 ――彼の答えは、既にその時に出ているのだ。

 しかしただ、不安であった。少年は自分に自信がなかった。社会的にも経済的にもまだ自立した成人でないということもあるだろう。
 覚悟を決めたなど体(てい)のよいことを言ってはいるが、こんなことをして、あさぎを大事にしていないことと同じではないか。彼女や自分の家族には少なくとも責められるようなことをしているのだし――彼はそう思っていた。

 どうすればよいのか分からない。竹は迷いの風に揺れる。
 ただ、彼女をもう二度と不安にさせたくないだけだった。
 だったら今このひとつ抱いている自分の想いを信じて、それだけは揺らがないでおくようにするしかないではないか。

 清矢郎はそこまで考え、ようやく言葉を口にした。

「……バレたら、困るから、」
「うん……」
「一緒に、居られなくなるから、」
「……うん」
「――ごめん」

 清矢郎はそう言うと身を切られるような想いを断ち切り、今夜はこれで終わりとばかりにあさぎの身体を離した。彼女に対しても中途半端なところで終わらせることを悪いと思っていた。
 しかしこの少ない時間と危ない場所で、これ以上踏み込むのは危険だと彼は慎重に考えたのだ。それこそ、あさぎを守るために。

 
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