碧落の砂時計 青竹迷風―第7話 決意(後編)―

碧落の砂時計

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 花火大会の熱い夜から、また二週間ほどが過ぎれば、もう夏休みは後半であった。今年の盆は、互いの親同士しか顔を合わせなかったのは幸いした。
 その間もあさぎに会いたい、と彼は漠然と思っていた。だが家族に今は知られてはならない、引き裂かれたくはない。そう恐れていた。

 よって夏休みの間は、部活や補習などで出かける時間をメールで打ち合わせ、互いの学校帰りに少し会って話をする程度のことしかしなかった。清矢郎の方が、あえてそうしていたのだった。
 
 しかし駅の近くで話をしていれば、当然、互いの同じ学校の生徒にも他校生同士のカップルとして眼に止まる。それは照れ臭いことであったが、高校生ともなれば人数も多い学校であり、かつ家の近所でもないので、親の耳にまでこのことが入ることはないであろうと思っていた。
 稀に互いの中学時代の同級生に会うこともあったが、それこそその生徒から互いの親に伝わるほど家族ぐるみで仲の良い相手も今はいない。
 それに一緒に居る二人が従兄妹同士であるということとは、口に出さなければ誰も分からないのだ。

 確かに、互いのことを従兄妹だと理解のある教師に紹介したこともあるが、以前から特別な感情を持っていたからか、血縁者だと紹介出来ずに他人のふりをしていたことの方が多かった。
 あさぎも最も仲の良い友人以外には、二人の本当の間柄を隠しているようであった。


 こんな風に嘘で嘘を塗り固めていると、そのうち本当のことが分からなくなるような。そんな不安がないこともない。


 清矢郎は初めての恋愛に溺れる己の愚かさに、自嘲しそうになる。――それでも、会いたい。その気持ちは確かであり、彼もあさぎも四年前のことがネックになっているのか、純粋な男女交際を主張することに逆に躍起になっているようであった。

 それにたとえ会っているところを見られても、性的な関係を結んだことを悟らせなければ、どうにでもまだ誤魔化せる。だからこそ彼は、あえて密室にならないような場所を選んで会おうとしていた。
 自分自身を律するために。会っている時も人目を気にすることで、彼女に触れないでいられるように。

 そして夏休み中に模試がいくつかあったが、清矢郎はそこでも結果を修めようと、家では一心不乱に勉強した。あさぎのことをあえて考えないように、様々な補習を受けたり参考書を猛然と読み漁る。
 元々「努力の仕方」を身体で覚えていた彼だ。それに将来、誰からも自分とあさぎの仲を認められるようにするには、今は肉欲に溺れるよりも大学に確実に受かって学問を修め、文句のない企業に入るのが一番手っ取り早いだろう、と意外に単純な彼はそういった結論に行き当たり、後はその目標に向かって我武者羅に突き進むだけであった。

 受験生であることと彼の日頃の姿から、清矢郎のその姿に誰も疑問は抱かなかった。
 逆に結果論ではあるが、こうして無心に勉強していることで、彼の家族も彼を安心して見ていることだろう。それは彼にとっても都合が良かった。

 それでもあさぎを思い出してしまった時は、思い切り身体を動かした。学校に行き、後輩を相手に竹刀を振るう。
「受験でストレス溜まってんだ」
と後輩には話したが、本当に溜まっているものは別のものなんだけどな、と清矢郎は内心では思いながら煩悩を振り払うように、汗を拭い、また次の一刀を振り上げる。


 それでも心に湧きあがる、寂しさと欲望は、尽きることがない――。
 自分が一人ではないことを知ってしまった時から、それまで以上にそれを求めるようになってしまった気がする。
 何で気を逸らそうとしても、結局はあのぬくもりを思い出す。


 駅前などで偶然を装って会うのは、週に一度ほど。暑い夏の夕方、自動販売機で買った冷たい飲み物を飲みながら、あさぎがぽつりと言った。
「また、どっか行きたいな」
 清矢郎はペットボトルを傾けながら、缶をいじるあさぎを横目で見た。
「別に、いいけど」
 ペットボトルの蓋を捻ると、彼はいつもの感情を見せない無表情でつっけんどんに言う。

「……」
 しかし、あさぎが黙っているので、清矢郎は「何?」ともう一度彼女を見下ろした。彼女は口をむーんと横に引いたような顔をしていたが、やがて少し拗ねたようにこう言った。

「なん、か、私からばっか、誘ってない?」

 ぐっと押し黙った清矢郎は、やがて困ったように頭をがりがりと掻いた。


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