碧落の砂時計 青竹迷風―第8話 忍ぶ恋(中編)―

碧落の砂時計

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 ……って、会わねえのも、嫌なくせにな……。

 結論は何も出ないままそれだけを思うと、清矢郎は椅子から降りあさぎの前に胡坐をかいた。
 彼女は文句を言った割に、近づいてきた身体の大きな少年にぴくんと反応すると、折り曲げていた裸足の膝をきゅっと抱き寄せた。スカートの中が見えそうになり、清矢郎はあえて視線を外す。

「ごめん……」
 彼があさぎを想って我慢をしていることが伝わったのか、彼女はぽつりと謝った。だが、すぐにその顔を上げる。
「で、でも、我慢なんかしなくていいじゃん。……付き合ってるん、だから」
 清矢郎は先程よりも近い位置であさぎの眼を見た。
「べ、べっつに、えっちばっかりしたいわけじゃないけど、一緒にいたいんだもん。会いたいんだもん。せいちゃんは、違うの? 私のこと、迷惑?」

 抑制が効かなくなることと、周囲に知られることを恐れて――それが二人を別つ原因になってしまうから――、清矢郎はあさぎを意図的に避けてきた。
 彼女はそれに気付いているのだろう。だが決して、彼女が心配するように迷惑だからではない。
 寧ろ逆だ。迷惑を掛けるのは――。

「んなワケ、ない。迷惑じゃない。寧ろ、俺もお前と同じ――」
 この恥ずかしい言葉をどう言ってよいか分からず、清矢郎は途中で口に手を当てると膝に頬杖をついた。
 迷惑を掛けているのは、自分の方だという言葉は噤んだ。
 四年前に彼女に触れなければこんなことにならなかったかもしれないと、何度も考えている。しかし、もうあの頃には戻れない。

 あの時のことをなかったことにしようかとした時に、あさぎは「金魚を見るようになった『今の自分』を否定するな」と清矢郎を詰ったからだ。あさぎは彼にそれを負い目に思って欲しくないようであるのだ。
 だからそれは、二度と言ってはいけない禁句だと清矢郎は思っていた。それを言い換えるように、彼は少々恥ずかしかったがこう言った。
 それは彼にもまた募っていた不安による、珍しい弱音かもしれなかった。

「……一緒に、居たくないワケじゃない。寧ろ、その逆。でも、会ったらお前に何するか分からんし――俺なんて、『前科』あるくれえなんだし。でも、そんなことばっかしてたら、周りにバレるかもしれねえだろ」

 周り、というのは主に互いの家族のことを指している。まだ体の関係を結んでいなければ、知られても別れるよう優しく諭されたり、大人になるまで待てと言われるくらいで済むだろう。
 二人をそれぞれ厳しくしつけてきた親達のこと、様々な禁断を破りこんな乱れた関係になっていると知れば、想像も出来ないほどの惨劇が訪れるに違いない――もう会うことも出来ないかもしれないほどの。

「わかってる。……わかってるよ。だから私も、いっぱい、我慢する」
 そう言って俯くあさぎに、清矢郎は幸せにしてやりたい彼女にこんな辛い想いをさせてしまうのは、自分の所為だと己を責め、彼女のことが可哀想になってしまう。
 しかしあさぎはその細い手を清矢郎に伸ばすと彼のTシャツを引っ張り、呆気なくバランスを崩したその身体にきゅっと抱きついてきた。

「でも今日は、時間あるから、いいでしょ……? そしたらまた、我慢するから……」

 ふわりと漂う少女の匂い。いつもの甘い、誘惑の匂い。
 互いの薄いTシャツ越しに伝わる、体温。
 柔らかな肌と皮下脂肪の感触。

 花火の夜から触れていない、艶かしい肉体が其処にある。
 眼の前にあっても、あえて触れてこなかったそれが――。

 それだけで馬鹿みたいに少年の身体は反応し始め、胸は高鳴り、己の愚かさに唇を噛む。
 ――もう、駄目だ。堕ちるだけなのだ。
 何をどんなに格好つけても、理屈を並べても、「ヤリたい」――悔しくも、ただそれだけなのだ。


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