碧落の砂時計 黄昏時の幻~もしかしたらの神様御礼SS~

碧落の砂時計

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 それは叶わなかった、夢の話――。

「ぎーおんさんっ」
「うぁおっ! てか、誰!?」
 とある県立高校の階段にて。見知らぬ男子生徒に名前を呼ばれた、背中で揺れる一本の三つ編みが印象的な女子生徒が、ブレザーのネクタイを弾ませ振り向いた。
「一年会わなかっただけで、忘れちゃったんですか?」
「え? まさか……。は、早海……?」
 きょとんと見上げた少女の顔は、一年前の彼の記憶と何も変わりはしなかった。ただその顔を見下ろすようになったことが、決定的に違っていた。

「祇園さん、英語の辞書忘れたから貸してください」
「なんで来るんだよ! お前、学年違うだろーがっ」
「祇園さんに会いたいから、わざと忘れるんですよ」
「何、偉そうに言ってんだ! ほんと、全然変わんないな。早海は……」
 少女は呆れて首を振るが、少年は言葉の代わりにくすりと苦笑する。
 ――本気なのにな、と思いながら。

 一体、いつ。
 どれほど深く想ってきたかを伝えればいいだろうか。
 時にその髪に触れ、肩に触れ、やっと追い抜いた身体の大きさの違いを実感しながら、徐々に距離を近付ける。
 追いかけて、追いかけてきた。彼女よりも背が高くなって、「男」になるまで。

「え!? ちょっと、なにっ!」
「だから、本気だって言ってんだろ」
 再会から数ヶ月後の夏休み目前。放課後の教室にて、敬語を使うことも止めて少年は少女を影の中へと追い詰めた。いつもの強気もぞんざいさも無くなり、女らしく怯える少女の姿が愛しい。もっと苛めたくなる。壁にぶつかった。もう逃げられない。少年は薄く笑った。すぐに真剣な表情に戻ったが。
「や……っ」
「やめない」
 壁に押し付けるように抱き締めると、少女の華奢な身体はあっさりと腕の中に納まった。
「やめて……。ど、どうしたの? こわい……」
 震える少女は小さく呟く。ようやく異性として意識してくれたらしい。少年は腕に力を込めて、更に胸を密着させる。力の差をもってすれば、抵抗などさせやしない。やっと男と女の関係になれるのだ。今まで、待ったんだ。
 半袖シャツから伸びた少女の細腕を、壁の方へと押し付けた。そして嫌がる年上の彼女の唇を――少年は、強引に奪った。
 蕩けそうに気持ちがよかった。初めてのキスだった。欲望のまま舌を捻じ込み、相手の粘膜をなぞり出す。まるで性器のように互いに充血し、勃起している気がした。
 薄い夏服を通した二人分の熱が溶け合っていく。相手の生身の温度が、高鳴る胸を益々逸らせる。我慢できなくなった彼は、白い布を押し上げている小さな膨らみに手を伸ばした――。
「――いやあっ!」
 ぎゅうっと乳房を掴まれた瞬間、少女はかっと眼を見開き、少年の唇から顔を背けて悲鳴を上げた。


 ――馬鹿な夢を見た。
「早海?」
 早海が眼を覚ますと、自分の腕の上で心配そうにこちらを見ている裸の祇園と眼があった。
 やっと夢から覚めた。これが今の現実なんだ。――そうだ、これからは裸で一緒に眠ることができ、望んだ時に腕の中に居てくれる距離にいるのに。

 祇園は目覚めたばかりの早海の眼が、心なしか曇り空のようになっていることが気になった。恋人同士になったことで、空白の五年間が埋まるような気がしたのに。早海は救われると言った気がしたのに。その想いは、やはり幻だったのだろうか。

 いや、幻なんかじゃない。

「ちょっとっ!? やだっ」
 するとどうしたことか。昨夜情交したうえに、これから大学の授業があるような平日の朝だというのに、早海に水着の日焼けの跡を舐められつつ、下半身にも手を伸ばされて祇園は焦った。だが彼女の抵抗する声は、早海が夢の中で聞いた怯えた声とはまるで違うものであった。

 たまには怯えたそれもいいが――やっぱり、違う。
 あのまま子供だった自分が、同じくまだ成人していない祇園に再会していたらきっと全てを壊していた。暴走して孕ませてしまったかもしれない。まだ成長しきっていない彼女に未熟な欲望のまま執拗に迫り、身も心ももっと傷つけたかもしれない。
 傷つけながら傍に居たいとは思わない。確かにあの頃はそう思っていた。その方が、傷と共に己の印象が深くなると信じていたから。

 だが今は、そんなことは望まない。どちらが正しい、正しくないなど分からないが、祇園が笑っている方が自分も幸せになれる。彼女を弱らせて隷従させるよりも、強い彼女に守られることの方が心地良いと思うようになったから。
 自分も、愛する人も、大切にする生き方を彼女に教えてもらったから。

 だからこれはきっと運命。すれ違ったのは、あの頃の自分たちには無理だったから。早海が言い訳のように自身に言い聞かせるのは、後悔するようなことをしてしまったからだ。複数の人を傷付け、望んでいなかった、悔いを残すやり方で、望んだ未来が手に入ったことが今でも彼の心に影を落としている。
 全ては闇に飲まれた自分の所為。そう思ってしまう意識が消えるまで、できることはただ、祇園の笑顔をひとつでもこの世に増やすこと――。
 その為に自分が傍に居ればいい。それが必要十分条件だというだから、なんと幸せなことだろうか。

 これからはずっと一緒に居られるのだ。深く深く、何度でも貫くことも許されて。
「いや……っ、あ!」
 と言いながらも祇園の声は熱で融解し始め、白い脚も自然と早海を受け入れるべく開いていく。

 これは遠回りして人も自分も傷つけながら、前に進み、望んでいた夢を叶えた話――。
 
 
   ~END~


>>今回の番外編SSは切ない?系にしてみました。らぶらぶには変わりないのですが;次はらぶらぶほのぼのでお会いいたしましょう~。

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2009.08.31 01:44 | 更新報告・制作情報 | トラックバック(-) | コメント(-) |
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