碧落の砂時計 青竹迷風―第9話 約束(中編)―

碧落の砂時計

オリジナル恋愛小説の作品紹介+更新情報+お話置き場。

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- --:-- | スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-) |
 その焦りを隠すように、清矢郎の声が荒くなった。
 ――その手を離されたくないのは、後悔されたくないのは、自分の方なのに。

 この優しい少女が望むなら、いくらでも望みは叶えてやる。結婚でもなんでもしてやる。
 逆に自分を切り離したいと望むなら、それも叶えてやる。だが近親者である以上、己を切り離そうとも、彼女に傷が残ってしまう――。

 しかしそんな珍しい様子の清矢郎に、あさぎもむきになったように言い返してくる。

「だから小学生の時に、清矢郎にあんなことされたから、金魚が見えるようになったって何度も言ってるでしょ!? そこまで私にさせるような男の人、この先現れるわけないないじゃない! きっと一生、あの時のこと、忘れられない! お母さんとかに今はまだ早いからって、無理矢理引き離されたって、他の人にしなさいって言われたって、きっとせいちゃんのこと、忘れられない! ――だから、せいちゃんじゃないと私は駄目なの!!」

 そこで二人は黙ると、無言で睨み合った。


 ――清矢郎は、ただ、悔しいと思っていた。

 まだ子供であることが。経済も世帯も独立させて、お前を守ると強引にでも言ってやれないことが。学生の分際でまだ何も先が決まっていないのに、夢物語のように「結婚しよう」などと軽々しく言いたくもない。
 あの日から、あの罪を犯した日から、何度彼女の存在を忘れようとしてきたか。如何にそれが不可能であったか。
 それでも彼は彼女を気にしてしまい、彼女は彼でなければ嫌だと、幼い頃のようにその背中をいつまでも追いかけてくる。

 ――いっそ自分など、嫌ってくれれば楽なのに――そんなことはもっと嫌なのに。

 轟々と渦巻き迷う、複雑な想いの中清矢郎が言葉を失っていると、あさぎの方が先に言葉を紡いだ。

「それって、私が他の人のこと好きになるって思ってるの? ……やっぱり私のこと、せいちゃんの方が、信じてくれてないじゃん」
 あさぎの眼に見る間に涙が溜まる。それは幼い頃と同じ涙だった。

 ――泣かせたくない。この子だけは。

 そう思った清矢郎は細い肩を握る手に力を込めると、それこそ幼い頃のように口下手なところをどうにか脳をフル回転させて、彼女を安心させるもので、なおかつ自分の中で嘘ではない言葉を探した。

「……だから信じてねえ、とかじゃなくて、……心配なだけだ。いくらそうじゃないって言ってくれても、俺が最初にあんなことした所為で、あさぎが俺じゃなきゃ嫌だって思うようになって、お前の一生を台無しにしちまったんじゃないかって。それでもいいって言ってくれるあさぎに、本当に甘えてていいのかって、あれから何度も考えてた。――あさぎを泣かせたくない、傷ついて欲しくない。ただ、それだけだ。あさぎが本当にそれでいいなら、後悔しない、幸せになれるっつうんなら、別に、この先一生一緒にいたって、……いい。でもそうじゃなければ――」

 後から考えれば顔から火の噴き出しそうな、まるでプロポーズのような恥ずかしい言葉でもあったが、清矢郎は不器用ながら己の不安と彼女への想いを懸命に伝えた。罪の償いにも何もならないが、今はそうした誠実な態度をとることしか、彼女に対してしてやれることはなかったからだ。
 あんなことをしてしまった相手はあさぎが初めてならば、この自分がこんな恥ずかしいことを言う相手もあさぎが最初で最後だろうと、十八の少年は真剣に思いながら。

 その想いは、あさぎにも伝わったのだろうか。
 彼女は今にも涙を零しそうにしてじっと彼を見ていたが、やがて拳でぐしぐしと眼を拭った。

「――ねえ」
「なんだよ」
「他の人にも、そうやって言ったりする? そうやって、幸せになってほしいとか、泣いてほしくないって、思う……?」

 また恥ずかしいことを聞くなと思ったが、彼女が涙を拭ったことに安堵した。もう泣かないなら、なんでも言ってやると、自棄くそのように清矢郎は言い切った。

「思わねえよ」


>>第9話後編へ
>>目次へ

サイトTOPへ
 
スポンサーサイト












管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://hekirakunokazamidori.blog106.fc2.com/tb.php/71-cdca85c0

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。