碧落の砂時計 青竹迷風―第9話 約束(後編)―

碧落の砂時計

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 するとあさぎは、途端に嬉しそうに笑った。先日初めて「好きだ」と言った時と同じ、いやそれ以上に嬉しそうな笑顔で。
「じゃあ、せいちゃんも、私だから、そこまで思ってくれるの?」
 あさぎは清矢郎ににじり寄りながら尋ねた。

 さあな、と彼は思わず照れ隠しに言いそうになったが、彼女が求める答えは分かっており、それが間違っているわけでもない。だから、ぶっきら棒に吐き捨てる。その言葉の裏側は非常に尊い感情であるのだが。

「……そーだよっ」

 「なら、いい」と言うと、あさぎは再び甘えるように清矢郎に寄り添った。
 彼はしばし黙っていた後、大きなため息をつくと、今度はためらいなくあさぎを引き寄せた。

 結局これからも罪を重ねるだけであるのに、彼の胸は妙に躍っていた。二人分の「一生」を賭けた約束を、あさぎとしたからであろう。
 自分なんかでよいのかとずっと不安であったが、あさぎに自分じゃなければ嫌だとはっきりと叫んでもらえたからだろう。

 「一生」を盾に脅しても、そう言ってもらえたからだろう。

 しかし、一生掛けて守ってやる相手ならば――多少の狂気も欲望も醜い感情も、相手を傷つけない程度にならば受け止めてもらってもよいだろうか。そんな疑問と情けない考えが、清矢郎にふと浮かぶ。
 だがこの不思議な少女は、少年のそんな気持ちを悟ったかのように笑うとその広い胸の中で呟く。

「せいちゃんも……この先もずっと、私じゃなきゃだめだって、私のこと忘れられないってくらいだと、いいな。家族のみんなに何言われるかって思うと、やっぱりすごく恐いけど……私は、せいちゃん、あきらめたくないから。ずうっと一緒に、いたいもん。せいちゃんが思ってるほど、私、浮気性じゃないよ」
 あさぎは上目遣いで清矢郎を見上げた。

「だから、大丈夫――もっと、頼っていいよ?」

 私なんかじゃ頼りないかもしんないけど、とあさぎは少し唇を尖らせる。その言葉が彼を再びどれだけ救ったか、気付きもしないで。

「せいちゃんこそ、大学入って彼女でも作らないかって心配なんだけどなあ……」
 あさぎはそう言いながら身体を起こし、清矢郎のTシャツを引っ張った。「それは、ない」と彼はぶすりと答える。

 それは彼が一度口にしたことは、必ず守る主義であるからだ。生半可な覚悟で口にしたり手を出したりすることは、彼の真っ直ぐな信条において有り得ないからだ。
 だからこそ、清矢郎が今こんな風に感情を曝け出して口に出したことは、本当に一生掛けて完遂するのだろう。その性分はあさぎもよく知っており、彼のそういうところに惹かれているので彼を信じようと思えるのであった。

 それを確認した後、「気が早いけど……」と前置きすると、彼女はぽつりと呟いた。

 「それなら私、せいちゃんの、赤ちゃんほしいな」、と。

 何処までも予測不能なあさぎの突飛な発言に、清矢郎はまた細い眼を見開いてしまう。

「小さい時にお母さんがね、『せいちゃんのお嫁さんになればいいのに』って冗談でよく言ってたんだけど、そういう時いっつも『でも親戚だしなあ……』ってぶつぶつ言ってたんだ。でもね、伯母さん――せいちゃんのお母さんがね、『いとこは結婚できるんだから。そういう人何人も知ってるよ』って言ってくれて、私、恥ずかしかったけど、なんだかすごく嬉しかったの」

 清矢郎は頭を掻く。
 ――やはり全面降伏なのだろう。
 罪悪感とか昔からとか、そんなことは関係なく、「今の」彼女に叶わないのだ。きっと、この先もずっと。

 この先はもう、昔の罪を引きずらなくてもよいだろうか。
 贖罪の為でもなんでもなく、ただ彼女と同じことを考え、同じ想いを抱き、同じことを夢見ていると思ってもよいだろうか。
 あの頃にはもう戻れないが、これからは別の形で心を通わせ、新しい関係を作っていってもよいのだろうか。

 こんな自分でも、ただ単純に未来への夢を見て、それを叶えてもよいのだろうか。


 彼はふと、泣きたくなった。しかしそれを隠し、ただ己の望むままにその細い身体を強く抱き締めた。
 彼女は嬉しそうに彼に抱きついてきた。その顔を見上げて笑ってくれた。

 作り笑いでも、狂気を孕んだものでもなく。
 彼の気持ちが心から嬉しいと言うように。

 「一緒に居ようよ」、と。


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