碧落の砂時計 青竹迷風―第10話「  」(前編)―

碧落の砂時計

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※R15の性描写がある回です。

 外では晩夏の午後の日差しがまだ厳しく降り注いでいるが、その暑さが異世界のことのように感じられるほど涼しく薄暗い少年の勉強部屋で、清矢郎とあさぎは充足感に包まれた温かい気持ちで寄り添っていた。

 最初に彼があさぎを家に連れ込んだ時と同様に、彼の父親と母親は仕事が忙しくてこの時間に家に戻ってくることがない。
 この逢瀬も抱擁もその間を利用した「犯行」のようで、今でも罪悪感が伴っていた。だからと言ってそういった目的で使用する場所にあさぎを連れて行くことは、高校生と言う立場から抵抗があり、何よりあさぎもそういったことは嫌がるだろうと思っている。

 ――だから、出来るだけ我慢して、あまりしないようにしよう。

 少年はそんなことを、今でも馬鹿みたいに真剣に考えていた。何をどう言い訳しても既成事実がある以上、何の許しにもなりはしないのに。
 いくらその手を離さないと、くすぐったく将来を誓い合ったと言っても、力の無い子供同士であることには変わりなく、家族を哀しませている行為を重ねていることにも変わりない。

 何も現実は変わっていない。
 ――それでも、二人の心は変わっていた。

 あの始まりの夏の日は、永遠に忘れられないだろう。
 四年前のあの罪深い出来事も、二人は永遠に覚えているのだろう。――だがもしもあの出来事がなければ、二人はどうなっていただろうか。
 もしかしたらその方が、彼女は幸せになれたかもしれない。少なくとも家族を困惑させたり、哀しませることはなかったかもしれない。そう考えない日はない。
 それでも、このように互いを深く想うことも決してなかった。

 いずれにせよあの出来事を無しにすることはもう出来ないのだから、後悔を続けていても仕方ないのだ。
 それでもいいと彼女が言ってくれるならば、二人であの日に別れを告げて前に進むしかないと、ようやく彼は本当の意味で「覚悟」が決められた。そして二人は、あの呪縛のようにこだわっていた夏の日から、やっと大人になる為に少しずつ動き出すことが出来たのであった。

 ――互いが傍に居れば、少しずつ変わっていけるだろうか。あの日を忘れないままに、自分自身を受け入れて成長していけるだろうか――。


 若干喧嘩のように声を荒げてしまったが、このように相手と気持ちを通わせられた状態で抱き合っている内に、段々と少年と少女の体温も上がってくる。
 無理もない。最初に身体を重ねてから約一ヶ月。互いに触れたいのに触れることを我慢し続け、人目を気にし続け、相手を想うあまりに苦しみ続けていた。
 それがようやく二人きりの場所で、相手の気持ちを確かなものと出来た安心感に包まれている。

 ――この状況で、どうして触れないでいられようか。

 それはこの相手をつがいとしたいと決めた動物の本能であり、男女の業(ごう)であり、とても単純な欲求であった。
 あまりの己の単純さに清矢郎は苦笑してしまいそうになるが、初めての日のあらゆる行為があれからずっと忘れられず、その後の古い公園での口付けも、花火の夜の秘め事も、全て身体がその続きを欲して疼いていた。勿論、四年前の出来事も、今でも心をざわつかせている。
 そしてその衝動は、清矢郎だけでなくあさぎも同じであった。

 清矢郎の長い指があさぎの髪を梳く。さらりとした感触が好きだった。
 壊れそうな柔らかい頬から、小さな耳に掛け手を辿る。
 「ん……」と啼くような、甘えるような高い声が聞こえる。
 その指に誘導されるように、少女の顔が上を向けられた。

 今までと違った意味で、二人の視線が合う。

 相手が自分を求めてくれている。
 自分の想いが認められている。

 罪だとか償いだとか責任だとか、もう考えなくてよいのだ。ただ、相手が愛しい。今はそれだけの気持ちで素直に見詰め合えていた。

 ――欲しい、と互いに思い、そして、吸い込まれるように重なり合った。



 ざわり、ざわり、ごうごうと、風に激しく揺れる緑の竹藪の中に、小さな赤い金魚がふわふわと紛れ込んだ。

 葉に身を切られそうになりながら、怯えながらも、そこから決して離れず、何かを探して心細げに金魚は泳ぐ。
 そして葉はその小さな身体を傷つけつつも、その激しい藪の動きが、その金魚を外界のあらゆるものから遮断し、守っていた。

 ――ごうごう、ざわりざわり。

 そして竹藪の中から飛び立つ、真っ赤な金魚の群れ。

 竹はそれを見上げるばかり――。



 ・・・・・・・・・・


 家族への罪悪感も正しい倫理も、衣服を全て取り払った愛しい少女の裸体を眼の前にすれば、全て横へと追いやられる。
 情けないと思いつつも、彼女もそれを望んでくれているからと彼は全てに眼を瞑り、それに惜しげなく手を伸ばし、顔を埋め、溺れていく。

 初めての時は緊張ばかりし、どのように触れていいのか、全く分からなかった。メディアや人との猥談などで見聞きしていたことを好奇心と興奮のまま試し、彼女はそれを悦んでくれていたのだが、それでもこれで正しかったのかと不安でたまらなかった。
 花火の夜に暗闇でまさぐった身体が、今日は昼間のカーテン越しの光の中で、あの初めての日のように浮かび上がっている。あの夜の彼女の様子も思い出しながら、今度はその悦ぶ場所をしっかりと探してやり、現れるあさぎの反応に清矢郎は充足感を覚える。

 相変わらず素直に悶える少女の姿も、やはり自分を信頼してくれている証拠のようで嬉しく思いながら。


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