碧落の砂時計 青竹迷風―第10話 「  」(後編)―

碧落の砂時計

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 それでも学生と言う立場や両親に黙っている後ろめたさから、自制はやはり必要となり続け、逢瀬は話をするだけの健全なものに留めていた。だがやはり想い合っている男女が、その気持ちを時に確かめたくもなるのは必然である。
 しかし互いの家で行為を重ねる危険も犯せず、公共の場所の見えないところでマナー違反と言われようとも、こっそりと身体を寄せ合い、時には重ねてしまう。

 ――そんなことをしながら、季節は流れた。

 流石に受験直前は、清矢郎もあさぎも会うこと自体を我慢をしていたが、本番前の寒い冬の日に寂しさからまた爆発してしまい、気持ちと身体を激しくぶつけ合った。
 そんな若さゆえの勢いに任せた行動に後悔し、興奮し、幸せになる。そんなくだらないことを繰り返している。……それが恋というものなのだろうか。


 清矢郎が大学生になれば、まだ高校生のあさぎは、大人びていく彼に劣等感を抱き、彼の周囲に居る女性に嫉妬をする。しかし真面目で誠実な青年が、あさぎを裏切ることは決してなかった。
 少女は彼の人柄を信じていたが、それでも不安や嫉妬ともどかしさから、彼を詰ってしまう。そしてまた感情の高ぶりにより、同じことを二人は繰り返し、それでもその手は離されなかった。
 そんなことをしながら、年月を重ねていく。

 自制と避妊をしながら、ずるいと思いながらも、もう少し大人になるまで誰かに何も言われず付き合いたいからと、未だ家族に気付かれないように、注意を払って。
 そう言いながら、行為自体も徐々にたどたどしい愛情の確認だけでなく、欲望を貪り合うことを楽しめるようにもなってきてしまう。

 流石にあさぎの母親は女の勘が働き、あさぎに「彼氏、出来たの?」と追及したり、娘が変な相手と交際をしていないか、チェックしてきたという。彼女はそういったことはないと、一生懸命誤魔化しているようであったが。
 だからちょっとしたことから相手が清矢郎だと知られるかもしれないから、交際相手が居るという自体も両親に隠したいと、あさぎの方から彼に距離を置くことを提案してくることもあった。

 彼らのその嘘を重ねる卑怯な行動が正しかったのか、分からない。
 きっと人として、青少年としてあるべき姿としては、間違っていることだろう。
 どんなに愛を語っても、大事な人々に嘘をつき続けていることには変わりない。それでも、浅ましくも結ばれたかったのだ。いつまでも一緒に居たかったのだ。

 いつか大人になる、その時まで。


 ・・・・・・・・・・


 ――そしてその六年後の夏。

 今、人生で最も緊張しているであろう、二人の男女が並んで道を歩く。
 一人は就職して二年を迎えた青年。もう一人は、就職先の決まった女子大学生だった。

「せいちゃん、殴られたりしないよね……」
 女性は本気で心配しながら、背の高い眼鏡を掛けた青年を見上げる。
「そんな、ヤワじゃねえよ」
 無表情ではあるが揺らがない自信を感じさせる声で、青年は彼女に答えた。
 その手が支えるように、支えられるように、どちらからともなく繋がれる。それは長年感じてきたぬくもりであり、この先も決して失いたくない掛け替えのないものとなっていた。
 そのぬくもりが互いの勇気となる。最初は反対されてしまっても、この意志を理解してもらえるまで諦めないでいようという強い気持ちに。

 子供の頃から仄かに想い合い、誰にも言えない関係を重ねあってきた従兄妹同士の二人が、遂に互いの家族に全てを話し、許しを請う日がやってきたのだ。
 しかし恐れはあるものの、互いに他に交際相手もおらず、それこそ幼い頃からの様子や、親戚同士の集まりでも意識してここ十年ろくに口をきいていないことからも、家族は何処となく二人の関係を察しているのではないか、という予感もお互い少しばかり抱いていた。


「あの、ね……」
 すると女性の方が言いにくそうに、青年に何かを言い掛けた。
「何だよ」
 いつもどおりぶっきら棒に問い掛けられるが、彼女は黒く長い髪を振ってはにかんだ笑みを浮かべた。

「んー、……やっぱ、父さんや伯父さんたちに話した後で、言うね」
 不思議そうに眉を寄せる青年に、彼女はただ笑って首を振る。
 実際、彼女にはまだ「確信」がなかったからだ。きっと全てが終わって、本当に新しい関係が始まった時にはっきりと分かるのだろう。

 彼はまだ知らないが、それは彼女だけが少しずつ予感していたことであった。弱く小さな少女から、大人になっていく間に。そして家族や彼への罪に苦しんできた気持ちから、逃れられた証明として。
 それでもあの美しい幻影も、切なくも輝いていた想いも一生忘れないものであるし、それらは決して嫌なだけの思い出ではなかった。逆にその尊い少年少女時代の日々は、己と彼の中に取り込まれていくに違いないと、その女性は思っていた。

 ――だって、あの金魚も、私だから。

 あの日から始まっていた原罪の日々が終わり、そしてまた新しい始まりを迎える。これから見えるものはきっと幻影ではなく、現実の美しい世界だろう。そう信じているから、彼と生きていくのだ。
 「それ」と過ごしてきた時間が長い分寂しいような気もするが、これからそれ以上の時を二人で、現実の世界で過ごすのだから。
 「それ」と過ごしてきた時間は無くならず、だからこそ今の自分があり、大人になれたのだから。

 これからは「幻」ではなく、現実の「彼」と向き合って生きていく為に。


 彼女が幼馴染で従兄のその青年に言おうとした言葉、それは。


『――あの、ね……私、金魚が、見えなくなったの』



   ~END~


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2008のサイトから来ました。
とても楽しく、読ませて頂きました。

欲を言えば、自分は他の機器に転送して読んでいるので、txtファイルが欲しかったです。手動作業ですべてを移すのは、ちょっと大変でした :)

2009.02.12 18:03 URL | milk #QhlGaGOE [ 編集 ]

>milk様
続編まで読んでいただいたうえに、温かいお言葉誠にありがとうございました!とても嬉しく感激しております。
ご要望につきましてもお寄せいただきありがとうございます。自分の場合、恥ずかしながら投稿サイトさんや無料ブログ、HP作成サイトさんをお借りし、そこのシステムを使って作品をUPしているだけでして、作品をDLしてくださったり他の機器に転送するなどして読んでくださる方のことまでは配慮ができていない状況です(大変申し訳ありません…)。
執筆に追われている現在、これまた申し訳なくもすぐには改善できないのですが、またそうしたことも勉強してもっと読者様にとって読みやすいサイトにしていきたいと思います!読みにくい環境だったにも関わらず最後までお読みいただいたうえに、温かいお言葉と貴重なご要望をお寄せいただいたこと、深く深く御礼申し上げます。

2009.02.12 23:13 URL | takao #KVcJ/2wY [ 編集 ]













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