碧落の砂時計 月姫異聞―ACT1 月の姫―

碧落の砂時計

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 天野 香具弥(アマノ カグヤ)。高校一年生。
 「それ」の始まりはいつもと変わらない、高校の帰り道のアスファルトでのことだった――。

「姫。お迎えにあがりました」

 銀髪の美青年が、突然少女・香具弥の目の前に膝をついた。その夢の国の住人のような言葉は、この日本においては不気味なものとして感じられる。
「月の世界へ還りましょう」
「はあ?」

 ――確かに私の名前は「カグヤ」だけど、ただの女子高生だぞ……。
 そう思った香具弥は関わり合いにならない方がいいと、さっさときびすを返した。
「まあ、他をあたってください」
「思い出されないのもごもっとも……しかし罪を償われた今、月に戻られ月の姫として……って、姫?」
 銀髪美青年の陶酔しきった言葉の途中だが、香具弥の姿はもうそこにはなかった。

 夏は開放感がありすぎて、変なのが多くて困る……と香具弥はため息をつきながら、家に帰った。
「ただいまー」
「おう、おけえり。って何だ、やけに疲れてんなあ」
 「天野屋」と書かれた古い看板の掛かる引き戸を開けたその店先に、香具弥の保護者である竹流(タケル)がいつものように煙草を口に座っていた。

「うん……何か変質者が居てね」
「ほう」
「あたしのこと月から迎えに来たって……」
「……マジかよ」
「変わった冗談……て、どしたの? タケちゃん」
 てっきり笑い飛ばされるかと思ったのに、竹流は煙草をぐしゃっと潰すと頭を抱えてしまっている。
「あー、そう」
 そして彼は大きなため息をつくと天を仰いだ。

「なによー。何なの?」
 竹流は再び煙草を取り出して口に咥えると、その眼鏡越しに香具弥を見た。
「……覚えてるよな? 此処へ来た日の事は」
「う、うん……」
 竹流は齢三十一、香具弥は十六くらい……「くらい」というのは、 四つか五つの時に香具弥は竹流に竹林で拾われたからであった。その前のことは何も覚えていないのだ。

 ――ただ、怖くはなかった。気がついたら困った顔の竹流がそこに居た。
 それが香具弥の一番古い記憶であった。

『なんだお前も独りぼっちなのか』
 そうしてニ人、手をつないで家に帰ったのだ。
『名前忘れた?』
 かぐや姫みたいだなと、まだ若かった彼は捨て子にこの名をつけた。

 香具弥は懐かしいことを思い出すと指を立てた。
「で、警察とか行って、今に至る」
「きっとその出会いがそれだ」
「タケちゃん!?」

「流石は月より選ばれし姫の守護者…」
 その時、先程の銀髪の美青年が突然手を叩いて店に入ってきた。

「ちょっと!? つけてきたの?」
 香具弥は驚いて振り向くが、青年は無視して相変わらず自己陶酔しながら話し出す。
「そしてその男が姫の守護者となってから以後、我々は姫の養育費として、このひなびた店の商売繁盛を支えてきたのです」
「あーだからこの不況にこんな小売店が倒産しないワケ」
 竹流は雑然と日用雑貨の並ぶ古ぼけた店内を見て、うんうんとやけに納得している。

「あ、あんたらねえ……」
 呑気な男二人に対し香具弥は一人、頭がくらくらしてきた。
「あなたは下天に下った月の姫……そして私はあなたを月へとお迎えする役目を担った、恒峨(コウガ)と申す者」
 恭しく頭を垂れる青年に、香具弥の口はあんぐり開いたまま。

 外ではみーんみーんと蝉の声、隣からはのんきな煙草の煙。
 いつもと変わらない、平凡な女子高生の日常は突然乱されることになった……。


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