碧落の砂時計 月姫異聞―ACT2 宣戦布告―

碧落の砂時計

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 突然のことに頭をくらくらとさせる香具弥に、現れた月からの使者・恒峨は彼女の都合も気にもせず、早速話し始める。
「今度の中秋の名月の晩、姫には月行きの汽車に乗っていただきます」
「汽車ぁ?」
「ジェット機をチャーターできる程の国家予算はありません」
 益々怪しすぎる……と震える香具弥と、どこぞの銀河鉄道9三つをのほほんと思い浮かべる保護者の竹流。
「汽車は年一本しか便がないので、今暫くお待ちください……。あ、勿論、グリーン席を用意しておきますから」
「そういう意味じゃなくて……」
 事の次第に全くついていけない香具弥が、どのようにこの人の話を聞かない青年に話せばよいのか口ごもってしまうと、それまで無言だった竹流が、煙草の灰を落としながら口を開いた。

「――あんさあ……月の兄さん。コイツが月の姫さんになるっつうコトは……やっぱ、それらしくしろってコトだよなあ」
「無論」
「商売とか始めたりしたら?」
「たとえ国家予算が火の車と言えども、一国の姫がそのような事をするなど許されません! ただでさえ、罰として下天に下っておられたのに……」
 これ以上国民の反発を買ってはならないですからと、恒峨はぶつぶつ呟く。
「だとよ」
 そこで竹流は立っている香具弥を振り仰いだ。

「おめえの夢は?」
「へ?」
 突然尋ねられ香具弥は素っ頓狂な声を上げたが、やがてぽつりと答えた。
「……骨董商……」
 およそ今どきの女子高校生らしくない夢なので、声に出すことが恥ずかしい。しかし女子高校生らしくなかろうとも、趣味の骨董品を、竹流と共に守ってきたこの小さな雑貨屋に並べることが、香具弥のささやかな夢であったのだ。
「そーゆーコト、月のお姫サマはしちゃいけないんでしょ? だったら」
 竹流はそこで煙草の煙を吐き出すと、ぐりぐりと乱暴に灰皿で潰しながら恒峨に宣告した。

「――あんたらに香具弥はやらないよ。この子の夢を奪いたいっつうような奴等なんかには……、やらねえ」

 口端だけで笑って、目は恒峨を押さえつける。
 滅多に聞かないだらしない保護者の保護者らしい科白に、香具弥の方が驚いてしまった。

「な、なんて身分をわきまえぬ言動……! ならば仕方ありませんっ」
 しかし思い込みの激しそうな恒峨は、これくらいで怯みはしない。そこでびしっと竹流を指さし、彼もまた宣言した。
「これから、姫の元に五人の求婚者が現れるでしょう! 貴方がそこまで言うのならば姫をその求婚者等に奪われぬよう、守ってみるがいいっ。それくらい出来ぬ者にそのような戯れ言を言う資格は……」
「しのごの言ってようは帰るまで変な虫がつかねえように、俺に見張れっつーの? てめえの力じゃ出来ねえからってよぉ」
 鋭い竹流の突っ込みに、ぐっと言葉に詰まってしまった恒峨を、「そうなの?」と横目で不審そうに見る香具弥。

「と、とにかく! 貴方に姫をこの先も守る資格があるか、やってみなさい!」
 そんな二人の視線から逃げるように、恒峨は甲高く叫ぶと出ていってしまった。

 後には、静かな閑古鳥……。

 やがて香具弥は呆然と口を開いた。
「タケちゃん……」
「ん?」
 信じ難いが彼女が竹藪で竹流に拾われたのは、紛れもない事実であった。
 しかしだからと言って、今すぐこの異常事態に対応できるものではない。
「驚いたら、おなか、空いたね……」
「おー。飯だメシ」
 人は処理しきれない事態に陥ると、現実逃避に走るものである。

 物事に動じない竹流の呑気な返事を聞きながら、これが変な夢であって欲しいと切に願う、香具弥であった……。


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