碧落の砂時計 月姫異聞―ACT3 月の使者―

碧落の砂時計

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 竹流に拾われてまもなくから、彼には店番があったし、案外嫌いでもなかったので、毎晩香具弥が食事の支度をしている。
 何故かこういった現実逃避したい日の方が、凝った料理が作れてしまうものだ。
 ……それにしても、こうして茄子だの胡瓜だのを冷蔵庫から取り出して抱える一般庶民が、月の姫であるとは思えない。
 やっぱり恒峨は胡散臭いんじゃないかと疑う香具弥であった。

 そうして夕食の準備も殆ど終わったが、香具弥はふと気がついた。
「あ。明日のお味噌汁の豆腐がないから、買ってくるねー」
 おー、という店の方にいる竹流の声を背中に裏口から家を飛び出す。

 夏であるので宵の口でもまだ明るい。無事に近所のスーパーで、少女が豆腐を手に入れた帰り道――。
「あれは……?」
 店の近くの児童公園に、一人寂しくパンをかじる恒峨を見つけた。
「なにしてるの?」
 香具弥が突然声を掛けたことで、恒峨は驚き叫んで仰け反った。落としたものは星型と月型の袋入りのパン。
「星パン100☆……?」
 袋に書かれた商品名を香具弥に復唱され、恒峨は穴があったら埋まりたいような気分になり、真っ赤な顔をして身を小さくする。

「恒峨さん……は、本当に月の人?」
「た、たとえ野に下ろうとも、私はれっきとした月王の臣下ですっ!」
 自棄くそのように叫び、光る月の紋章や地球行きのパスポートなどを次から次へと取り出す恒峨。
 分かったわよ、と香具弥は彼のそれを制し、もしかしたら月は竹流の店より貧乏な国なんじゃないのかな……とそこはかとなく心配になる。

「うちもお金ないけど、今夜だけでもごはん食べに来る?」
「何をおっしゃいますかっ!私は勅命で来ているのですよ! そのような……」
「だって、パンだけじゃ栄養失調になっちゃうよ」
「星パンはビタミンやミネラルも含有してます!」
「何やってんだお前ら」
「タケちゃん!」
 二人で言い合っていると、突然竹流の声が割り入った。実は香具弥が公園で見知らぬ怪しい男と痴話喧嘩をしていると、竹流の店に近所の老人から報告が入ったのだった。

「この人、今夜泊めていい?」
 香具弥の問いに竹流は眼鏡の奥の眼を瞬かせて彼女を見、恒峨を見て、そして星パンを見て――、心から大きなため息をついた。
 それは恒峨のプライドを益々傷つけたが、結局心配する香具弥とそんな香具弥に結局甘い竹流に引きずられるように、彼は二人の家に連れ込まれたのであった。

 竹流の祖父の代から続く、今や切手から学校指定の体操服から携帯電話やはたまた不動産まで、何でも取り扱うこの雑貨点・天野屋。店と隣接する古い茶の間で、恒峨を含めた三人は食卓を囲むことと相なった。
 姫にこのような事をさせるなどと……としのごの言っていた恒峨だが、やがて空腹に耐えかねて香具弥の料理を口にする。
 久々にまともな食事を口にしたのか、その後は黙っていそいそと箸を進める恒峨。竹流の晩酌の焼酎を水と間違えて飲む頃には、いけませんを繰り返しながらも開襟状態。

「秘書官って大変なのね……」
 酔い潰れて茶の間に横たわり、寝息を立てる銀髪の美青年を見ながら、夕食の片付けをする香具弥はしみじみと呟いた。
 そうだなあと棒読みで答えながら、竹流は煙草を口にプロ野球を見ていた。

 月の話はまだ全然ぴんとこないものの、月の使者はどうやらそれほど悪人ではないように香具弥には見えた。


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