碧落の砂時計 月姫異聞―ACT4 一人目の求婚者―

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 謎の月の使者をとりあえず家に泊まらせた香具弥だったが、目が覚めたら恒峨はそこに居なかった。鍵が開けられた形跡もなく、幻のように消えた彼はやはり本物の月の使者だったのだろうか、と改めて思う彼女であった。
 何処に行ったかは分からないが、これ以上哀れみを受けることは彼の沽券に関わると思われたし、特に異変も起こらなかったので香具弥は普通に学校へ行くことにした。

 高校への道を普段と変わらずのろのろと歩いていると、突然後ろから鞄で頭を軽く叩かれた。痛いなあと香具弥が背後を振り向くと、そこには違う高校の少年が立っていた。
「相変わらずぼーっとしてんな、香具弥は」
「うるさいよ、火衣(カイ)……朝練は?」
「テスト前だから、休み」
「あっそ」
 この阿部火衣という少年は、住んでいる町内は違うものの小学校からの知り合いで、いわゆる幼なじみというやつである。高校が別々になってからはあまり会う機会もないが、こうして会えば昔のように軽口を叩き合う仲だった。

 同じ方向に高校があるため、ニ人は自然と一緒に学校へと向かう形となる。そしていつものように口喧嘩を交えて他愛無い話をしていたが、
「――っつうわけでさあ」
「うん」
「つきあってよ」

「……は?」
 どういうわけでそういう会話の流れになるのだろうか。香具弥はぽかんと口を開けて火衣に聞き返す。
 ――確か前の会話は胡瓜の和辛子づけについてだったはずだったのに……。

「何処に……?」
 とりあえずお約束の一言。

「永遠に」
「もうつきあってるじゃん」
「じゃあ墓場までつきあえる?」
「……」
「ホテルとか結婚式場とかでもいいけど」
 その言葉に香具弥は火衣から思わず一歩後ずさる。
「場所で言えばそういうこった。解るな?」
 彼は口をへの字に曲げると念を押すように、香具弥を見た。彼女は本当かよ、と言うように火衣をまじまじと見てきたので、逆に彼の方が目を逸らしてしまう。
「っ、か、考えておくよーに!」
 そのまま彼は後ろ手に指をさすと足音も荒く、先に歩いていってしまった。

「……」 

 晴天の霹靂に呆けてそのまま立ち尽くしていた香具弥であったが、三十分後、再びよろよろと歩き出した。


「っうかさあ、絶対おかしいよ!」
 その日一日ぼーっとしていた香具弥であったが、自宅の古い店に帰り、呑気な竹流の顔を見た途端に爆発した。
 店の木製カウンターに勢いよく手をついて、竹流に切々と訴える香具弥。彼は煙草を吸いながら売り物のエロ雑誌を見つつ、香具弥の話を聞いている(はずである)。
「だって急に、火衣がおかしくなって……脈絡がなさすぎる! 絶対に月の呪いだよっ」
 昨日の恒峨の予言――五人の求婚者が香具弥の前に現れる――。火衣の突然の不可解な言動は、この恒峨の呪いによるものだと香具弥は主張する。
 こんな混乱の中でも、彼女は既にてきぱきと美味しいコーヒーを淹れて竹流に手渡しており、それ飲むべく、竹流は煙草を消しながら尋ねた。

「お前はその火衣坊に、全く興味は無いわけ?」
 竹流も幼い頃からあの背の低い少年を知っており、香具弥のことを気にっていたことも知っている。きっと彼にとっては初恋で初めての告白であろうに、月の呪いと言われては火衣少年も浮かばれまい――と竹流は内心では男として少々同情していた。
「ないっ」
 しかし見事なまでにきっぱりと香具弥は答える。
「あ、そ。じゃあかぐや姫みたいに無理難題でも出したら」
 ――真剣に聞いてるのかな……と香具弥は竹流の飄々とした様子に訝しんだが、近所の茶飲み仲間の老人が客として現れたので、彼に邪魔だと追い払われてしまった。

 彼女はため息をつきながら、次はふらふらと本屋に出かけた。そこで次の受難が待ち構えているとも知らずに……。


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